ゴルフで健康と幸福を:ゴルフと健康部会インタビュー

ゴルフで健康と幸福を

ゴルフと健康部会インタビュー

吉田裕明 ゴルフ振興推進本部 副本部長(右)
中島和也 ゴルフと健康部会 部会長(左)

ゴルフと健康部会設置の背景と経緯

―日本ゴルフ協会(JGA)のゴルフ振興推進本部に「ゴルフと健康部会」ができた背景、経緯を教えてください。

中島部会長 2016年、関東ゴルフ連盟(KGA)理事だった兄の篤志(20年死去)が、ゴルフは認知症予防に大変、効果があるのではと提唱し、当時、国立長寿医療研究センターの理事長であった鳥羽研二先生(現東京都健康長寿医療センター理事長)との出会いもあって、WAG(ウィズ・エイジングゴルフ協議会※)の活動が始まりました。

鳥羽先生ら医学界の協力で、ゴルフが認知症予防につながる可能性があることわかりました。この研究を今後につなげるためにも、JGAの事業として取り組めないか。吉田裕明副本部長を中心に、2年間ほど話し合いました。ゴルフがいかに健康に寄与できるのか。人々の幸せにどう関われるかを伝えていく。これが『ゴルフと健康部会』の使命です。

―JGAの定款の中でも、ゴルフは国民スポーツ、生涯スポーツであると書かれています。それに沿った部会ではないかと思います。

吉田副本部長 今までJGAは、1パーセントのエリートゴルファーを対象とする活動がメインであり、ゴルフの普及、振興ということは、エリートゴルファーを通じて行ってきました。しかし、日本全国にある各地区連盟、JGA加盟倶楽部の声をうかがうと、エリートゴルファーだけではなく、99パーセントの一般のゴルファー、あるいは世間一般に目を向けて欲しいという希望が上がってきました。さらに「ゴルフ界は、世間一般の人からどう見えるかを意識して活動したらどうか」という声もいただきました。そのために、JGAは定款の変更をして、1パーセントのエリートゴルファーに加え、99パーセントの一般ゴルファーに向けた施策をうって、ゴルフ全体の普及、振興をしようと足を踏み出しました。

ゴルフと健康に関わる活動は、ゴルフをする人にも、しない人にも役に立つ、いいテーマだと思います。具体的に何をするかということで、最初にあがったのがウィズ・エイジングゴルフで、そこには亡くなられた中島篤志さんの熱い思いが込められてもいます。

―日本は近い将来、認知症になる方が数百万人になるだとうと言われています。高齢化社会が進む中で、こうした活動が行われる意義は大きいと思います。

中島部会長 日本では、ゴルフは一部の人のスポーツと認識されている傾向があります。そうではなく、今までゴルフに触れることがなかった方、関心がなかった方に、ゴルフと健康のプログラムを通して少しでも健康に、幸福になっていただきたい。それで生活を豊かにしていただきたいというのが、私たちの願いです。

シニアオープンの期間中を『ゴルフ健康週間』に

―具体的にどういう活動をされるのですか。健康部会の事業として①広報活動②継続的なデータ取得及び活用③行動計画作成及び普及活動④ゴルフによるコミュニティ作りを支援する活動、という4つの柱を立てられていますが。

吉田副本部長

吉田副本部長 広報活動ですが、世界ではゴルフと健康に関する様々な活動が行われています。ゴルフは歩きますから、有酸素運動をする。これは生活習慣病を予防する面でいい。さらに言うと、例えば心筋梗塞を起こした後のリハビリに、欧米ではゴルフが勧められています。ゴルフと健康の間には精神面も含めて密接な関係があると言われています。そうした情報をできるだけ多く集めて、皆さまに知っていただきたい。

2番目ですが、ゴルフと健康に関する学術論文が、ここ数年で、非常に増えてきています。それらの内容をかみ砕いてお伝えし、ゴルファーの方や世の中の方に知っていただく。この活動により、ゴルフのイメージアップを図りたいと思っています。WAGの立ち上がりから参加していただいた鳥羽先生もご協力いただけるので、最新の研究成果もお伝えしたい。

3番目は、具体的な行動を決め、実践していこうというものです。まずはWAGで行ってきたことを基本にして、ゴルフと認知症というテーマから行いたいと考えています。参加しやすいプログラムに少し変え、多くのJGAの加盟倶楽部が自治体と一緒になって進める。そういうきっかけ作りから始めようと思っています。

毎年9月、厚生労働省が健康増進普及月間として、地方自治体と協力して国民の健康づくりを推進する活動を行っています。ちょうど日本シニアオープンの日程が9月にあります。そこで、来年の日本シニアオープンの期間中を『ゴルフ健康週間』と名付け、各地のゴルフ場でWAGのプログラムを実施してもらおうと準備をしているところです。少しでも多くの加盟倶楽部が手を挙げてくれ、年を追うごとに増えてくれれば、一つの大きな成果になると考えています。

まだ準備段階ですが、JGAの加盟倶楽部のメンバーに、ゴルフと健康に関するアンケート調査ができないかと考えています。昨年、R&Aから委託されて、R&Aのアンケート調査を日本語に訳したものをJGAでもみなさんにやっていただく活動をしました。JGAとしても、こうした調査を行いたい。ゴルフと健康というテーマで、ゴルフは健康の何にいいのか、何にいいと思っているのか、実際に実感しているのはどういうところなのか、また期待しているのはどういうところなのか、などを質問するアンケート調査をやりたいと考えています。「ゴルフはこれだけ健康にいいと思われています」ということを世の中の方にお示しできれば、と思っています。

―ゴルフは健康にいいことは誰でもわかることだとは思いますが、少し意外に思ったのが、コミュニティ作りを支援する活動が、4番目として健康部会の方針に入っていることでした。具体的にどのようなことでしょうか。

中島部会長 ゴルフに限らず、スポーツは単純に健康にいいと言い切れない面も持っています。例えば、プレー中だけでなく、準備やプレー後のケアを間違えると、身体を壊してしまったりすることが起きかねません。そこで、筑波大の白木仁名誉教授にもご参加いただいて、正しい準備とクールダウンのプログラムを作成していただいているところです。そういったもので、WGAのプログラムが健康を損ねない点でも貢献できるのではないかと思います。

また、コミュニティの話ですが、ある程度の年齢になるとゴルフができなくなったり、ゴルフの機会がすごく減ったりしてしまう人を数多く見てきました。周りの方々がゴルフをやめてしまうと、ゴルフ場に足を向ける機会が少なくなってきます。その人のコミュニティが減少すると、活動が減り、会話がなくなります。そこで、コミュニティ作りも促進していこうと考えています。積極的に自治体の協力を得て、ゴルフを通して集まりやすいコミュニティを作り、様々な活動、会話ができる場を提供していきたいと思っています。

―確かに、男性の場合、会社を辞めると家にこもってしまう人が、かなりいるそうです。女性は、普段から地域のコミュニティに関わっている人が多いようですが。

吉田副本部長 WAGのプログラムに参加すると、そこで8週間、一緒に過ごします。その結果、仲良くなり、自然とコミュニティが生まれて、その後も何かのボランティアを一緒にやろうとか、一緒にゴルフを習おうとか、そういうことが生まれています。確かに、男性が特に孤立しやすい。仕事を辞めたとたん、どうしていいかわからない状態になる。これは実は非常に健康によくないと言われています。認知症予防にも良くないと思っています、ただ、認知症は、年を取れば取るほど、女性ばかりになってきます。ですから、男性にも女性にも、ゴルフは認知症予防に効果があると思います。健康のまま長生きすることにつながることは、日本の社会全体にとって非常に重要なことではないでしょうか。10年ほど前になりますか、当時のデビット・キャメロン英国首相が、G8のサミット会議で最初に取り上げた大きなテーマが認知症予防でした。それは先進国だけの問題ではないというのが彼の主張でした。

ですから、ゴルフと健康をテーマにすることは、社会全体のニーズに応えることになると思います。自治体の首長さんと話をすると、彼らは時々、「認知症対策をどうするのか」という質問を受けるそうです。自治体と協力してWAGのようなプログラムに取り組むことは、市町村にとっても非常にいいことだと考えています。ゴルフ界全体のイメージアップにもつながるでしょう。

―認知症予防には、二つ以上のことが組み合わされた「デュアルタスク(二重課題)運動」が効果的だと言われています。ゴルフは、歩いて打ってだけでなく、見て、頭で考えて判断し、スコアの計算をし、同伴者と会話をします。

中島部会長 そもそも、WAGのプログラムの大きな柱に、歩きながら引き算、足し算をすることがあったように、有酸素運動をしながら何かを考えたり、あるいは言葉にしたりすることが大きなポイントなのです。私はゴルフ場のキャディーさんで、認知症になったという人を聞いたことがありません。女性の方が認知症になりやすいそうですが、私のコースのキャディーさんの中には70歳代半ばの女性も何名かいますが、元気に健康に活躍をされています。ゴルフは、上手な方でも歩く距離は相当なものがあります。会話をしながら出来る数少ないスポーツといってもいいでしょう。それが認知症予防にもなり、何より健康につながります。

高齢者のコミュニティーづくりをサポート

中島部会長

―認知症の方が増えていくと、国をはじめ自治体の財政負担がかなり重いものになります。

吉田副本部長 皆様が想像しているよりも急激に、高齢化が進んでいます。日本は超高齢化の先進国と言ってもいいでしょう。ある意味では、世界に先駆けた例になるわけです。ゴルフによって健康寿命を延ばす取り組みを、世界に向けて発信できるかもしれません。地方財政は今、非常に傷んでいます。国民健康保険は、地方自治体の負担で運営されています。そこに介護保険、認知症に関する金が加わり、非常に重い負担になっています。認知症の人を減らす、または予防することは、日本全体にとって、非常に大きなテーマです。

中島部会長 今、デイケアの施設が非常に増えています。それだけ高齢化社会になっているわけです。仕事から離れれば時間はできるはずですが、コミュニティは、逆に衰退し、どんどん少なくなっています。その点でゴルフが少しでもお役に立てれば、と考えています。

―難しいのは、高齢者の方を、どうやってゴルフ場に来ていただくようにするか、ということでしょうか。

中島部会長 そのためには、参加しやすいようなWAGのプログラムにすることが大切ですし、自治体の協力が非常に大事です。加盟倶楽部さんとの関係作りも非常に大きくなってくると思います。

吉田副本部長 その事で議論しているのは、地方自治体と一緒にやることです。ゴルフをしない人に声をかけるわけですから。地方自治体の広報誌とか、地域からお声がけをいただいて、ゴルフ場に来ていただく。ゴルフ場に来るだけで気が晴れるかもしれないし、このようにきれいな所なのだと思ってくれるかもしれない。いかに地方自治体と上手に手を組むかということだと思います。私のコースの地元の町長さんたちと話をすると、非常に乗り気です。特に、一日で終わるプログラムだと手を付けやすい。そこから入っていきたいと考えています。町の反応はよさそうですが、問題はそこから先です。広報誌に出した時に、どのくらい来てもらえるのか。人を集めるのは、WGAの研究プログラムの時もけっこう苦労しました。最初は少人数でも、毎年、続けていくことで広がっていくこというのが、現実的かもしれません。

―先ほど、来年の日本シニアオープンの際に何かのイベントをされるというお話がありました。アンケート調査をされる考えがあることも、うかがいました。このゴルフと健康部会が、来年はこれをやる、その先はこれをやるという計画はありますか。

中島部会長 まず、来年のシニアオープンのゴルフ健康週間に向けて、しっかりしたものを作っていきます。より多くの倶楽部の下に、多くの方が参加していただくことを考えなければいけません。

自治体と一緒にJGA WAGスクールを実施

―ゴルフ健康週間というのは、シニアオープンの会場だけで行うのではないのですね。

吉田副本部長 日本全国で皆様に声をかけます。具体的にいうと、8地区連盟とプロ団体と、練習場と用品協会の皆様に声をかけ、それぞれの団体や加盟クラブ、会社に活動していただく。できればWAGのプログラムを自治体と一緒になって、ゴルフをやらない人を集めたい。その模様をゴルフ情報シェアリング部会のゴルフ応援サイトにどんどんアップしてもらえば、日本全国でこういうことをやったと伝えられます。そうすればある種の一体感ができるのではないかと願っています。

―これだけは話しておきたいことはありますか。

吉田副本部長 今まで考えていたような、ゴルファーを対象としたものではなく、むしろゴルフをしていない人たちにどう働きかけていくか、が一つ大きなポイントだと思います。

―それは振興推進本部全体のテーマでもあります。

吉田副本部長 ゴルフの振興推進というと、どうしてもジュニア育成とか、県単位の大会への助成とか、そういうことに頭が向かっている傾向にあることは事実です。時間はかかるかもしれませんが、振興推進本部の各部会が活動して、初めてご理解いただけるのかもしれません。ゴルフと健康、女性とゴルフの二つがテーマになっているのは、今までの活動とは明確に違うということも示しています。

中島部会長 ゴルフはごく一部の人の特別なスポーツという印象を持たれています。確かにメンバーシップの倶楽部というのは、そういう側面もあると思います。しかし、ゴルフそのものは本来、誰でもできるスポーツでもあります。ゴルフを通して心身ともに健康になっていただきたい。スポーツはそもそもそういうものだと思います。その役割をゴルフと健康部会、JGA WAGスクールが担うと思っています。

 

※ウィズ・エイジングゴルフ協議会(WAG)
2016年、関東ゴルフ連盟、支配人会連合会、日本芝草研究開発機構、日本プロゴルフ協会、日本女子プロゴルフ協会によって構成された団体(2022年2月解散)。国立長寿医療研究センター、東京大学、杏林大学と共同で、認知症予防におけるゴルフの効果検証のための研究を行った。ゴルフをしていない65歳以上男女106名を集め、半年間、週一回ゴルフをする群としない群に分け、両群の認知機能等を比較した結果、ゴルフをした群の記憶機能が改善されたという結果を得て、2018年にイギリスの公衆衛生学誌「Journal of Epidemiology and Community Health」に論文発表をした。R&Aからも、研究成果が高く評価された。

 

構成・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)

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