《シリーズ対談》第4回 ゴルフと健康増進

鳥羽 研二 東京都健康長寿医療センター理事長・医学博士・ゴルフ振興推進本部参与
横倉 義武 日本医師会名誉会長・元世界医師会会長・社会医療法人ヨコクラ病院理事長・医学博士

鳥羽研二・東京都健康長寿医療センター理事長  この連載は、ゴルフがいかに健康維持、増進に役立つかを伝えるため、毎回、各界の方を招いて話をお伺いしています。今回は、日本医師会名誉会長で、世界医師会会長も務められた横倉義武先生にお出でいただきました。先生は、79歳の今も、所属倶楽部の月例競技に参加されておられるバリバリのゴルファーでもあります。
まずは仕事について、お聞きします。大変な重責である日本医師会長になられた時、どのようなご心境であったのか。当時のことをお話しいただけますでしょうか。

横倉義武先生  平成18年(2006年)から福岡県の医師会長になり、2期4年、務めました。平成22年(2010年)の日本医師会の会長選挙の際、2つの陣営から副会長になれといわれていました。その会長選挙は3人で争われ、茨城の原中勝征先生が会長になられました。日本医師会は、キャビネット制と言って、会長が指名をした役員ぐるみで選挙行うのですが、その時は副会長、常任理事も選挙で決めることになり、私が副会長に当選し原中会長時代に副会長を2年間、務めさせていただきました。私が次の会長選挙に出ることになり、そこでまた3人で選挙をすることになり、大変苦労しましたが、選ばれたときは大変な重責だと思いました。2回、3人の選挙を経験していますから、オールジャパンの体制を作ろうと呼びかけたことを覚えています。

ちょうど日本は高齢化が進み、介護保険制度も定着してきて、医療制度が大きく変わる時期でした。転換期にふさわしい医師会活動をやらなければいけない。私が会長になった時は民主党政権で、野田佳彦総理の時でした。東日本大震災があり、その復興にも努力をしながら、医師会に対する国民の信頼をどう構築するかが一番の課題でした。東日本大震災の時には、全国から医療関係者が約1万人、現地に約3か月間入ってくれて、避難者の健康支援に頑張ってくれました。それが非常に高い評価を受けて、国民の皆さんからの支援が受けられたと思っています。

かかりつけ医制度を推進

鳥羽理事長  日本医師会長は、お医者さんの団体の長ですから、お医者さんの働きに応じて正当な報酬を得るための仕事をされているわけです。しかし、「医者は金持ちなのに、そんなにお金を取るのか」という、マスコミの変なたたき方がありました。横倉先生は「医者が正当な報酬を得て働くことが、国民にとってもプラスになる」と発言され、その仕組みとして「かかりつけ医」制度を推進され、お医者さんのいい仕事がダイレクトに国民の役に立つことを提唱されたと思います。かかりつけ医の事を強調された理由、意義を教えていただけますか。

横倉先生  アメリカなどには、家庭医という制度があります。日本も導入しようとしたことがありますが、課題がありすぎて、家庭医構想は一度、頓挫しました。しかしながら、地域の住民に一番近いところで医療を提供する医師、つまりプライマリーケアをする医師は必要です。そこで、かかりつけ医という構想を日本医師会から打ち出しました。日本の開業医の先生は、割と専門性を持つ先生が多い。そういう専門性を大事にしながら、地域住民の健康の相談に乗り、病気をされた時にはまず診察をして、自分の専門でなければ専門医に紹介するという機能を開業医の皆さんに持っていただきたい。こうした考えから、かかりつけ医機能の推進を強く打ち出しました。そのために、かかりつけ医の研修制度を作りました。カリキュラムに沿って、毎年、1万人くらいに受けていただき、定着させていこうという努力して参りました。

鳥羽理事長  私は病院の医療しか知らないですが、うちの病院では紹介率が7割、逆紹介が9割近くあります。いわゆる大病院では患者数を絞り、難しい診断と詳しい検査、外科的なことを行う。一方、身近にいる先生には、2週間に一度程度、気軽に、そしてしっかり、その患者を診てもらう。家族構成など患者について詳しく把握しているかかりつけ医に普段、診ていただくことが大切です。このような仕組みは、横倉会長時代に急に進んだように思います。それまでは紹介、逆紹介というケースはそこまで多くなかったと感じています。

横倉先生  地域医療支援病院という仕組みができ、支援病院の基準を紹介率、逆紹介率という指標を作って、確立しました。それによって、地域における医療機関の役割分担が進んだと思います。

横倉先生

 

鳥羽理事長  横倉先生は、武見太郎先生、坪井栄孝先生に次いで、3人目の世界医師会会長になられました。私は、イギリスなどと比較して、日本のかかりつけ医の方がはるかに素晴らしいと考えています。横倉先生は、日本と世界の医療の違いについて、どのような印象を持たれていますか。

横倉先生  日本の医療制度の中に、国民皆保険制度があります。先達が大変なご苦労の中で作られた。これが継続できているのは、素晴らしい事です。地域でも社会でも、それぞれ経済格差はあるわけですが、この制度のおかげで、病気をしたら皆が平等であるということが徹底され、社会の安定に役立っています。その国民皆保険制度の中で、医師はどのような役割を果たすのか。その事を考えた場合、かかりつけ医として、地域の住民の方の色々な相談に乗る役割が非常に重要だと常々、言ってまいりました。

鳥羽理事長  半世紀とか100年間の平均寿命のグラフを見てみると、経済成長で乳児死亡率が減ったこともさることながら、1961年の国民皆保険制度スタートから急速に健康寿命が延びて、世界一の健康寿命になっています。ただ、そのことを、国民は十分に理解、感謝していないように思えます。私は、日本の医療制度が世界一だと、口を酸っぱくして伝えています。でも、先生方は遠慮されて、アピールされないのかな、と感じています。

横倉先生  世界医師会の中では、日本の医療制度を導入したいという声がかなりあります。私が会長だった時代、安倍晋三総理にも、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage=すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態)を世界に広げようという活動を一緒にしていただきました。フォーラムも、日本で開催させてもらいました。そうした活動は、特に、アフリカとか東南アジアなど皆保険制度がない国にとって、ものすごく大きなインセンティブ(動機、刺激)になりました。インドネシアは皆保険制度をスタートしましたが、日本の支援、日本の方式を導入しようとしています。

ゴルフの魅力は自然の中を歩けること

鳥羽理事長  ゴルフの話をお聞きします。先生がゴルフを始めたのは、いつごろですか。

横倉先生  久留米大学の医学部を卒業し、医者になってから始めました。大学の外科教室では、月に一回、ゴルフのコンペがありました。先輩方には、仕事だけではなく、ゴルフでも厳しく指導されました。

鳥羽理事長  世界の医師会長になられて、海外でもプレーをされましたか。

横倉先生  アメリカで何度かしました。それとタイ、インドで一度ずつ。

鳥羽理事長  インドでのゴルフはいかがでしたか。

横倉先生  ゴアというところでアジア大洋州連合医師会の総会があって、ホテルのそばのゴルフ場で半日、プレーしました。コースは、暑くて、湿度も高かったことを覚えています。

鳥羽理事長  今日は、福岡の古賀ゴルフ・クラブで一緒にラウンドさせていただいたのですが、国内では思い出に残るコースはありますか。

横倉先生  あまり地元以外でやったことがないのですが、輪厚(札幌ゴルフ倶楽部輪厚コース)でゴルフをしたことが思い出になっています。難しいコースでした。

鳥羽理事長  先生は70歳代後半ですが、第1打を私よりも40ヤードも先に飛ばされていました。得意なクラブはドライバーでしょうか。

横倉先生  まだアイアンがきちんと打てないので、練習しなければと思っています。

鳥羽理事長  それは、ご謙遜を。ところで、ゴルフどのようなところに、楽しさ、魅力を感じられますか。

横倉先生  まず、外を歩くことですね。我々は、常に室内で仕事をしているので、自然の中を歩けることが魅力です。それも、ただ歩くだけではなくて、ボールを打っていく。そして目標がありますよね。パーを獲りたいとか。それでパーを獲れた時の喜びはとても大きいものがあります。

鳥羽理事長  先生の場合、たくさんゴルフの誘いがあると思いますが、スケジュール管理はどうされていますか。年間、ラウンドの予定がかなり埋まっているのでしょうか。

横倉先生  日頃は病院の近所にある福岡サンレイクゴルフクラブでプレーをし、月に1回は初めてメンバーになったブリヂストンカントリー倶楽部(佐賀)で、で昔の友人達とプレーしようと思って通っています。

鳥羽理事長  ゴルフ以外で、健康維持のために注意されていることはありますか。

横倉先生  できるだけ散歩をするようにしています。今、福岡県南部の筑後地方という農村に住んでおります。家の前は田んぼですから、自然の中を散歩しています。東京にいる時は、夜、散歩ができていました。街灯がありますから。田舎は街灯がないので、蓋のない溝に落ちてしまう恐れがあります。それなので夜はできなくて、朝、散歩しています。

鳥羽理事長  ゴルフ以外のスポーツはされていますか。また、食事など気を付けていることはございますか。

横倉先生  ゴルフ一本やりです。食事では肉が好きです。

鳥羽理事長  結構ですね。とにかく高齢者は、肉を食べないといけないのです。魚だけではだめで、肉を食べろとよく先輩の先生方もおっしゃっていますよね。

横倉先生  聖路加国際病院の日野原重明先生も、100歳を超えられても肉を食べられていました。

鳥羽理事長  お仲間でゴルフをされる時、プレー後もお話をしたり、会合が組まれたりしていることがありますか。

横倉先生  結構、歌うのが好きで、カラオケに行きます。歌うのは、我々が青春時代だった時の曲が多いですね。

鳥羽理事長:先生は、昭和19年生まれで、私の兄と同級です。そうすると、三橋美智也とかでしょうか。(笑)

鳥羽理事長

横倉先生  第1回のレコード大賞を獲得した水原弘とか、野口五郎の歌とかね。野口五郎さんとは一緒にゴルフをしたことがあります。レッスンプロかなにかの資格を持っていると聞きました。野口さんとなぜ、仲良くなったかといいますと、彼は、人間が聞くことができる音域より、さらに低い周波数の音を加えることによって認知症の予防になるのではないか、と考えていたのです。それでつながりができました。あの方は、様々な勉強をされているようです。

鳥羽理事長  確かに、最近、そういう研究があります。低周波を使って(体のある部分を)揺らすことによって、脳を活性化させたり、神経疾患を起こすアミロイドの沈着を図ったりする研究を東大などで行っています。

横倉先生  そういうことを野口さんが話されたのです。そういう話を聞くと、みなさんは馬鹿な事を言いなさんな、と思うでしょう。でも、私は、まず話を聞くことにしています。そうしたら、野口さんが話を聞いてくれたと大変、喜んでくれたのです。

鳥羽理事長  そうですね。腸内の細菌と脳が関係していることなど、昔は誰も考えてもいませんでした。オーストラリアの方が提唱したヘリコバクターピロリ菌と胃潰瘍、胃がんの関係だって、以前は馬鹿にされていました。話を聞くと言うのは大切だと思います。医師会長の時も、すべて否定するのではなく、いろいろな方の意見をお聞きになっていたことがわかります。

エージシュートも目前に

鳥羽理事長  先生にとって、国内、外国のゴルフ場のそれぞれ一番のコースはどこでしょうか。

横倉先生  アメリカでは、プロのトーナメントなどが何度も開催されているシカゴのコースCog Hill Golf Clubですね。日本では、この古賀ゴルフ・クラブです。

鳥羽理事長  クラブの月例とか競技も出られていますか。

横倉先生  最近ですけど、出ています。とにかく20年間くらい東京にいる間はお盆と正月くらいしかゴルフができないでいました。

鳥羽理事長  月例競技などで、ここを入れないといけない、というクラッチパットで入れるコツはありますか。

横倉先生  パターが下手で、だいぶ外しています。ただ、やっと自分に合うパターを見つけました。それで今、割とスコアがまとまっています。3週間ほど前、自分のコースでブリジストンスポーツ杯があって、ネット65を出しました。優勝かと思ったら、ネット61の方が出てきてだめでした。(笑)

鳥羽理事長  エージシュートに近づいたことはありますか?

横倉先生:昨年3月、玉名カントリークラブ(熊本)でゴルフをした時に、地元の医師会のゴルフ大会があって、その時77歳8か月で、78でした。惜しかったです。今年1年間、79歳のときに頑張って出したいと思っています。

鳥羽理事長  球が力強いですし、達成されると思いますよ。最後になりますが、先生の住んでおられる場所も含め、地方では高齢化が加速しています。ご自身の経験も踏まえ、地方で暮らしている方にとって、ゴルフをはじめとしたスポーツや運動が有効だと思われますか。

横倉先生  とてもいいと思います。私は、東京一極集中主義を打破しないと、日本はつぶれると思っています。人々に、できるだけ環境がいい所に住んでもらうような努力をしないといけない。大都会の方が住みやすく、スポーツなどに触れやすいことはあるかもしれませんが、地方在住者、高齢者にも、できるだけスポーツや運動に触れてもらうことが大事だと考えています。

鳥羽理事長 今日は、たくさんの興味深いお話をしていただき、ありがとうございました。エージシュート達成のニュースが届くことを願っております。

 

構成・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)

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