ゴルフ界の共通プラットフォームへ
情報シェアリング部会インタビュー
吉田裕明 ゴルフ振興推進本部 副本部長(右)
近藤勇樹 情報シェアリング部会 部会長(左)
ゴルフ振興推進本部設置の経緯と情報シェアリング部会の役割
―ゴルフ振興推進本部ができた背景と、情報シェアリング部会の役割を教えてください。
吉田副本部長 日本ゴルフ協会(JGA)の総務委員長・税対策部会長として、ゴルフ利用税の撤廃や、国家公務員倫理規定から『ゴルフ禁止』の文言を外すために活動してきました。役所などとの交渉の中で、「ゴルフ界は、それぞれがバラバラに事業を行っていて、意見も団体、個人によって違う。統制がとれていないのではないか」という厳しいご指摘を受けました。ゴルフ界が一致団結して動かないと、力にならないし、交渉もできないということです。ゴルフ界の意見を統一する場を設けないといけないということを痛切に感じました。
JGAは、全国の8地区連盟に支えられています。JGAと地区連盟が同じ方向を向いて協力し合う体制を作らない限り、他の団体も動いてくれません。JGAと8地区連盟が一緒に働けるテーマは何か。地区連盟から上がってきた意見が、ゴルフの普及、振興でした。そこで、これまで競技中心だったJGAは定款を変更し、一般のゴルファーだけでなく、ゴルフをしない人にも働きかけて、ゴルフの良さを伝えていくことになりました。ゴルフによって認知症予防に役立ててもらうなど、国民の健康増進を支援する。これは地方自治体の財政支援にもつながります。女性ゴルファーを増やし、その中から複数のリーダーが誕生することで、女性の地位向上にもつなげる。振興推進本部の活動の柱ができてきました。
ゴルフ振興推進本部の活動目的を達成するために、各加盟倶楽部、プロ団体、用品協会、練習場連盟や行政機関、研究者等からゴルフに関する情報を収集し、その情報を発信するプラットフォームを構築することが情報シェアリング部会の役割です。
ゴルフ振興情報の収集と発信と『JGAゴルフ応援サイト』
―情報といっても、様々な種類がありますが。
近藤部会長 部会の事業内容として掲げたのは3点です。一つが国内のゴルフ場に関する情報の収集と発信。次がゴルファーに向けたゴルフ振興情報の発信です。最後が、ゴルフのイメージ向上のための情報の収集と発信です。ゴルフの普及、振興に関することなら、『JGAゴルフ応援サイト』というプラットフォームを見れば、一目でわかるようにすることです。
このサイトは、各ゴルフ場、地区連盟、プロを含めた各団体が、記事や情報を直接、書き込めるものになります。地域社会への貢献活動、未経験者や初心者向けのイベント情報、海外の研究も含めた学術的な話など、内容は多岐にわたるものになるでしょう。
吉田副本部長 例えば、8地区連盟はそれぞれ、ゴルフの振興につながる様々な事業を行っていました。関東ゴルフ連盟では、ゴルフと認知症予防の関係を調べる『ウィズ・エイジングゴルフ(WAG)※』の活動に取り組んできました。これにはプロ団体や支配人連合会、専門医師らも加わって、成果をあげました。その他、各団体も、振興につながる様々な活動をしています。ただ、それらの情報がどこにもまとまっていない状態でした。
それぞれが行っていることを、一つのところに集めて、目に見えるようにすれば、お互いに参考にすることもできます。一般ゴルファーの方にも有益な情報がアップされていきます。これが『JGAゴルフ応援サイト』です。
8地区連盟や加盟倶楽部との密接な連携
近藤部会長 これまでは、JGAから加盟倶楽部に対し、一斉に連絡する手段がありませんでした。メールアドレスも把握していない。一番加盟倶楽部が多い関東ゴルフ連盟でさえ、加盟倶楽部などにFAXで連絡している状態でした。今回、『JGAゴルフ応援サイト』が、各ゴルフ場、各団体がメールを通じて投稿する仕組みになったことで、一緒に何かできるフィールドが構築されたと思っています。
―他のスポーツと比べ、ゴルフ界はバラバラだという印象があります。今回、JGAが中心になって、主な団体や個々のゴルフ場が同じ場所に情報を載せる仕組みを作ったことは、画期的だと思います。どのような情報をアップする予定ですか。
近藤部会長 最初は、JGAの池谷正成会長、津賀一宏副会長、山中博史専務理事によるゴルフ振興についての鼎談を動画でアップし、ゴルフ振興推進本部を作った思い、考えをお伝えします。ゴルファー向けに関しては、特集記事をいくつか組む予定です。20代、30代の初心者に向けた動画もアップしていきます。また、日本全国のゴルフ場来場者数の調査を、2か月ごとに発信していき、ゴルフ場の現状をお伝えします。振興推進本部の他の部会、『ゴルフと健康部会』『女性とゴルフ部会』の活動を発信する役割もあります。各団体、8地区連盟、各ゴルフ場、練習場などからも、どんどん発信していただきたい。やっているうちに、役に立つ情報は何か、などが見えてくると考えています。
吉田副本部長 女性ゴルファーを増やす活動をしていきますが、実は女性来場者数をまとめる仕組みがありません。1500のJGA加盟倶楽部から、女性の数、年齢別の分布などのデータが集められるようになれば。一体になって動こうという、この仕組みは、本物のものになるのかもしれません。
ゴルフ場による地域貢献
ゴルフ場による地域貢献などもテーマになるでしょう。例えば、埼玉のある倶楽部では、幼稚園児にゴルフ場を開放して、芝生の上を思い切り走ってもらっています。ゴルフ場に入ったことがない方に見学してもらい、整備されたコースの美しさ、自然を味わっていただく企画に取り組んでいるクラブや地域もあります。
災害拠点として地域に貢献しているゴルフ場もあります。2011年の東日本大震災、19年秋に関東を直撃した台風の時には、いくつもの加盟倶楽部のゴルフ場が被災者に風呂などを提供しました。ゴルフ場には、風呂だけでなく、レストランがあり、宿泊施設を持つ所もあります。自家発電装置を備えているゴルフ場も増えてきました。広い駐車場、屋外スペースも何かに使えるかもしれません。そうした活動をまとめて紹介すれば、いざという時に役立つ情報になると思います。イベントなどで普段から自治体と協力関係にあれば、ゴルフの振興だけでなく、地域貢献など様々な分野で連携が取れると考えています。最初はアップされる情報が少ないなど、失敗の繰り返しかもしれません。でも、続けていくうちに、各団体、加盟クラブ、そして自治体など外部の方々を含めて、このサイトの活用法が見えてくると信じています。
※ウィズ・エイジングゴルフ協議会
2016年、関東ゴルフ連盟、支配人会連合会、日本芝草研究開発機構、日本プロゴルフ協会、日本女子プロゴルフ協会によって構成された団体(2022年2月解散)。国立長寿医療研究センター、東京大学、杏林大学と共同で、認知症予防におけるゴルフの効果検証のための研究を行った。ゴルフをしていない65歳以上男女106名を集め、半年間、週一回ゴルフをする群としない群に分け、両群の認知機能等を比較した結果、ゴルフをした群の記憶機能が改善されたという結果を得て、2018年にイギリスの公衆衛生学誌「Journal of Epidemiology and Community Health」に論文発表をした。R&Aからも、研究成果が高く評価された。
構成・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)