《シリーズ対談》第1回ゴルフと健康増進 ゴルフ界と医学界で手を携え国民の健康増進へ

《シリーズ対談》第1回 ゴルフ界と医学界で手を携え国民の健康増進へ

池谷正成 日本ゴルフ協会会長
鳥羽研二 東京都健康長寿医療センター理事長・医学博士・ゴルフ振興推進本部参与
聞き手:吉田裕明 ゴルフ振興推進本部 副本部長

ゴルフ振興の重要なテーマ『ゴルフと健康』

―日本ゴルフ協会では、ゴルフ振興を推進する重要なテーマとして『ゴルフと健康』を取り上げ、取り組みを始めたところです。池谷会長からは健康問題に取り組むことになった背景と今後の大きな目標を、鳥羽先生からは医学者の立場から、ゴルフと健康の関連性についての話をお聞かせください。

池谷会長 日本ゴルフ協会(JGA)は長年、競技を主体に運営されてきました。ゴルフの普及、振興にもっと力を入れるべきではないか、という話がいろいろな所から出てきて、ここ数年、どうすべきか方策を考えてきました。ゴルフの持つ良さを再点検し、多くの人に役立つようにJGAの形を進化させていくべきではないか、ということになりました。

今年、JGAの中にゴルフ振興推進本部を組織し、この問題に取り組むことになりました。たくさんテーマはあると思います。女性の参加を増やすことや、ジュニア層の参加、教育の機会を増やすことなどもあると思います。その中にシニアゴルファーの問題があります。これまでも、70歳以上はゴルフ場利用税を免除してもらうなど、シニアゴルファーを増やすことに取り組んできました。ただ、シニアだけでなく、これから年を取っていく人に対して、またゴルフをする人、しない人にかかわらず、もっとゴルフが貢献できることがあるのではないかと考え、研究が始まりました。鳥羽先生には、関東ゴルフ連盟が取り組んだWAG※の活動に、最初から参加いただいた経緯があります。老年医学の専門家である鳥羽先生に話を伺える機会を楽しみにしていました。

高齢者にとって、ゴルフがいかにいいスポーツであるかということから、話をさせていただきます。ゴルフは、他のスポーツと違って、過激ではありません。最近、年を取ったら、走るなどの過激な運動は良くないと言われています。ただ、「歩け」と言われても、なかなか続きません。私も、家の周囲を散歩しましたが、長続きしませんでした。

ゴルフで、緑の芝の上を歩く。白いボールを追いかけて歩く。1ラウンドで10キロほど歩いても、これには抵抗がありません。ゴルフ場に行くと、お元気な高齢者がたくさんいます。90歳を過ぎても元気にラウンドされ、「エイジシュート(年齢以下のスコアで回る)が簡単になったよ」と笑っている方もおられます。

多分、ゴルフをされているから、お元気なのだと思います。打数やトータルスコアを数えるから、頭の体操になります。ルールもいろいろありますから、それらを考えながらプレーします。それを一人でするのではなく、仲間と一緒にゴルフをして、いろいろな話題の話をします。自分の知らない世界の事を知ることもあります。そういう事を知ることは、脳の活性化につながると思っています。

私は医学の専門家ではないので、ゴルフをすることが高齢者にどのような効果があるか詳しくはわかりませんが、幸いにもWAGでいろいろな事を研究されて、効果があるという論文も発表されました。

秋に行われたゴルフの日本女子オープンの時、R&Aのゴルフ振興の責任者の方が来日され、私もお会いしました。先ほど話したWAGの論文が、R&Aでも評価されているそうです。

今、世界的に進められているのが、女性ゴルファーを増やそうという運動です。毎年6月には”Women‘s Golf Day”があって、女性の参加を増やそうという活動が行われています。同時に、高齢者のゴルファーも増やそうというのが国際的な動きになっており、これをゴルフ振興推進本部の大きなテーマとして取り上げることになりました。これから鳥羽先生のお話を伺って、どういうことをすればいいのかお知恵を拝借したいと願っています。

池谷会長

―鳥羽先生は、WAGの活動に最初から加わっていただきました。ゴルフとの関わり、始められたきっかけなども含めて、お話いただけますか。

ゴルフで心身ともに健康になる理由

鳥羽理事長 このような機会をいただき、ありがとうございます。ゴルフは最近、ものすごく人気があって、国民がゴルフの良さに気付いたと感じています。予約が取りにくくなったゴルフ場もあると聞いています。ただ、日本と海外ではゴルフの良さに対する考え方の違いがあると思います。イギリスでは、政府が主唱し、ゴルフが健康にいいということが議会の中で議論されています。このように、海外では、ぜいたくなスポーツという昔の価値観はなくなり、ゴルフは大衆の健康にいいということが知られています。日本と海外では、ゴルフに対する社会の受け止め方が、ずいぶん違っていると思います。ゴルフと健康の研究を通じて、社会の理解が少しでも深まるように、微力を尽くしたいと考えています。

私自身は、大学の卒業近くになってゴルフ部に入りました。デビュー戦では借りたドライバーを折るなどして、90、90のスコアでした。アメリカ留学時代、6ドルでハーフを回れることもあって、仕事帰りの夕方、年に200回から300回ほどやりました。最近では、妻と毎週、回っていますが、いっこうにうまくなりません。

WAGの研究ですが、私が所属していた国立長寿医療研究センターの研究室で、運動は認知症予防や体力の低下を防ぐのにいいというたくさんの論文を出していました。運動だけでも脳の萎縮は若干、予防されるのですが、島田裕之先生(同センター部長)らは、運動をしながら頭を使う「コグニサイズ」が、通常の運動よりも脳の血の巡りを良くするという研究を行っていました。認知(コグニション)とエクササイズを組み合わせた言葉です。コグニサイズを行うと、脳全体の血流が増えるだけでなく、特に頭の横の方の鬱に関係する部位の血の巡りが良くなります。目の少し奥に意欲に関係する部位があるのですが、そこの血流も活発になってきます。知的なことに関係する前頭前野の血流も増えます。

頭を使いながら運動をすると、より脳の活性化につながることを話した愛知県での講演会に、栃木・東松宛ゴルフ倶楽部の当時の社長だった中島篤志さんが来られていました。私は、東松宛のメンバーだったので、次の日曜日、コースに行ったら、篤志さんに呼び止められました。「講演を聞きましたが、頭と体の両方を使うスポーツとは、まさにゴルフです。認知症予防に効果があるのではないでしょうか」と言われました。この出会いからWAGの取り組みが始まりました。

実は、その前にも、ゴルフと健康に関する研究は行われていました。そこでは、名古屋市と大阪市在住の65歳から96歳の3800人ほどを対象に、認知機能などの特性を調べました。男性が46パーセント、女性は54パーセントで、月に1度以上ゴルフをする人は18パーセントでした。

ゴルフをする人は歩行速度が速く、歩幅が広い。骨密度が高く、筋肉量が多いなどの体の特性のほか、鬱の人が少なく、睡眠が深く、幸せ感が高いこともわかりました。これと並んで、言葉を覚える能力や、理由と理解を記憶に融合させる論理的記憶がゴルファーははるかに高いこと、目標を見つけて追っていくトレイルメーキング機能や図形認識機能がすごく高いという結果が出ました。

ただ、ゴルフをしているからそういう効果があるのか、それらがいい状態だからゴルフをしているのかがわからない、という批判がありました。そこで、WAGでは、ゴルフをやらない人に集まってもらい、その中からゴルフを定期的に行う群と、講義だけの群に分けて、研究することにしました。結果、ゴルフをやっている人は、やっていない人に比べて論理的記憶が保たれていたことがわかりました。

イギリスでもスポーツと健康に関する研究は行われていましたが、高品質なものはあまりありませんでした。きちんと、ゴルフをする人、しない人に分けて行った研究はWAGが世界で初めてで、R&Aからも高く評価されたことは、非常に光栄でした。

昔から、運動は百薬の長、万能薬と言われています。このメカニズムですが、脳には認知症を発症させるタイマーがあります。さらに、そのタイマーを呼び起こす危険因子があり、それを防ぐ予防因子があります。危険因子には、糖尿病、中年期の高血圧、肥満、脳血管症、不整脈、不眠などたくさんあります。R&Aでも、ゴルフには40の生活習慣病の予防に役立つと言っています。若い時からゴルフをしていると、生活習慣病の予防になります。

先程、池谷会長が、10キロ歩くと言われましたが、私のようなヘボゴルファーは、18000歩ほど歩き、1000キロカロリー以上を消費します。それによって、筋肉がインシュリンを作り、血圧は下がりますし、血糖値も下がります。そのような危険因子を下げると同時に、予防因子というものがありまして、これは知的刺激を続けること、運動を続けることが、病気の予防につながります。

コースの攻略をいろいろ考えながらプレーをする。番手選びなどを、頭を使いながら行う。知的刺激のもう一つは、コミュニケーションです。仲間がいて会話をする。話して、相手の話を聞く事は、認知症予防のために一番、薦めていることです。読書の時は、ただ読むだけでなく、声に出して読んでくださいと、みなさんに話しています。同窓会に出て、仲間と昔話に花を咲かせるのも、とても良い事です。話すだけで、頭の血の巡りがワッと増えます。これらが一体になって、ゴルフが認知症予防にとてもいいと言われています。

最近では、筋肉から脳に様々なシグナルが送られていることがわかっています。これらが直接、認知症の予防に効果があるという基礎研究もたくさん出てきています。そして何より、睡眠に非常にいい。ゴルフをした後は、ぐっすり寝られます。最近、不眠が認知症の非常に強いリスクであることが、わかってきています。メカニズムは多岐にわたりますが、こうしたことが今、考えられているところです。

認知症以外の病気については先ほど話しましたが、さらに言えば屋外に出ると紫外線をある程度、浴びます。それによってビタミンDが作られ、骨を丈夫するだけでなく、筋肉にも働くホルモンとなります。従って、屋外でやるスポーツは、糖尿病や高脂血症、高血圧といった病気以外に、骨や筋肉にもメカニズムとして有効なことが示されているのではないかと考えています。

―わかりやすく話していただいて、ありがとうございました。

池谷会長 身体だけでなく、精神面にもいいというお話でしたが、確かにボールをたたくことはストレス発散になります。鬱の問題もそうですが、コミュニケーションが認知症にも大変、役に立つというお話でしたね。

ゴルフというのは、ボールを打って、また次の地点に行く。その途中、みんなで話をする。終わった後、お茶を飲んだりして話をする。そういうソーシャルな部分を持っているスポーツです。それがいいのでは、と感じました。

妻も、仲間とゴルフに行きますが、とてもストレスの発散になるのか、帰ってくると非常に機嫌がいいのです。家庭の平和にもゴルフが役に立っています。

高齢者は、一人でじっとしていると、だいたい体調が悪くなります。近くの治療院にマッサージに行くと、いるのは高齢者ばかりです。高齢者の医療費の削減のためにも、ゴルフは非常に役に立つと思います。

鳥羽先生

ゴルフを始めるのは若ければ若いほどいい

―認知症予防のために、いつごろからゴルフを始めるといいのでしょうか。なるべく早く始めた方がいい、という話を聞いたことがありますが。

鳥羽理事長 認知症という話に特化すれば、脳にゴミがたまり始めるのは(発症の)20年ほど前と言われています。ですから、生活習慣病の対策も含めて、少なくとも50歳くらいには始めた方がいいでしょう。若ければ若いほどいいと思います。

2015年、安倍内閣時代に健康・医療戦略推進会議が立ち上がり、私も委員になりました。その一丁目一番地は、健康寿命の延伸です。健康寿命延伸のために、中年から始めるのが要点だと思います。

―できるだけ早くゴルフを始めて、様々な病気の予防に役立てていただくことが重要だということですね。今回、JGAは『健康とゴルフ』を振興推進事業の柱の一つとして取り上げましたが、池谷会長、目標はどのように考えておられますか。

池谷会長 ゴルフは、若い時から年を取ってまでできる生涯スポーツです。他にもスポーツは数多くありますが、ある一定の年齢になると体力的に続けられないスポーツもたくさんあります。その意味で、ゴルフは一生続けていただきたいスポーツです。

日本は、アメリカに次いで、カナダと並ぶ数のゴルフ場があります。ここのところ、入場者数が増えていますが、数年前まではゴルフ場の経営が成り立たなくて、太陽光発電施設に変わるなど、嘆かわしい状態でした。ゴルフ人口を増やす。最低限、減らさないように、日本ゴルフ協会は努力していかないといけないと思っています。高齢者と女性のより多くの参加は非常に望ましいことで、それを進めていくことがゴルフ界の目標となっています。そのために今年から、ゴルフ振興推進本部を立ち上げたわけです。先生のお話を伺うと、年を取ってからではなくて、もっと早くから始めた方が、健康に効果があるということです。ジュニアの段階からゴルフの楽しさを知ってもらうことも重要だと感じました。

多くの人がゴルフを通じて楽しめるような環境を整える。なおかつ、そのことが健康の役に立つ。そのために何をするか。振興推進本部が様々な事を研究し、先生のお知恵を拝借しながら、進めていきたいと考えています。

―鳥羽先生に伺います。JGAの目標を達成するためには、医学界と手を携えて進めていくことが大事だと思います。どのような協力が考えられるのか、お教えください。

鳥羽理事長 池谷会長のお話を受けて、少し雑談をさせてください。もう少し若い頃、ゴルフは男のスポーツであり、接待を受けるものだったりしました。朝早く出て、夜遅く帰ってくるものですから、「あなたばかり楽しんできて」と、妻の機嫌が悪かった。できれば早くから女性がゴルフを始め、夫婦一緒にとか、女性の友人同士でゴルフを楽しむようになれば、ゴルフへの理解が深まります。何事も、女性の参加、理解は大切だと思います。

日本老年学会は、お年寄りの病気だけでなく、予防についても研究しています。最近では女性参画に力を入れ、女性理事も増えています。学会には、ゴルフだけでなく運動に関するセッションがあって、科学的な発表が毎年、行われています。たくさんの人を調べ、どういうスポーツで何ができるかという研究を、これから盛んにしていこうと会員にお願いしたいと考えています。総務省の発表でも、80歳以上まで続けられるのはゴルフだけです。テニスは70歳ぐらいで厳しくなります。サッカーで、アキレス腱を切ったり、骨折したりした知人がおります。過激なスポーツは、体をかえって壊すことがあります。ゴルフは80歳、90歳まで続けることができます。そういう点で、生涯スポーツとしてゴルフの疫学研究をしてもいいと考えております。

私がいる東京都健康長寿医療センターでは、どういう人が認知症になるのか、あるいは認知症になりかけから良くなるのかという研究をしています。また、最近はフレイル(加齢とともに運動機能や認知機能等が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態=厚生労働省研究班)の研究に力を入れています。フレイルの方は、きちんと運動をし、食事に気を付けると、4割くらいは元に戻り、要介護にならないことがわかっています。そこで、どのようなスポーツをしているかをしっかりと調べ、ゴルフの普及の一助になるような科学的な研究を続けたいと考えています。

―フレイルもそうかもしれませが、認知症は女性の方が男性よりも多くり患し、進行すると聞いています。

鳥羽理事長 女性は、男性の2倍くらい認知症の方がいます。女性の病気といっても過言ではないくらいです。

―そうなると、女性がゴルフを始めることは非常にいい事ですね。

鳥羽理事長 日本人の女性の平均閉経は、51、52歳ですが、そこから急激に骨の量が減っていきます。高血圧も増えていきます。50歳が分岐点なのです。ゴルフは骨を丈夫にし、筋肉も丈夫にして、足腰がしっかりして、頭にもいい。女性は50歳になったらゴルフをすべきという結論になるわけです。もっと早い方が、さらにいいのですが。

―池谷会長から、鳥羽先生への追加の質問などはございますか。

池谷会長 私自身、77歳になります。先生のお話に出てきた様々な病気の対象者です。60歳の時に潰瘍性大腸炎を発病し、それから病院通いが始まりました。血糖値、血圧、中性脂肪など、問題点をいろいろ言われます。でも、ゴルフをしていると、病気をしても寝込んでいるわけにはいきません。ゴルフ場に行きますから、じっとしていることがないわけです。ゴルフがなかったら、何となく家にこもるようになって、どんどん老人化が進み、他の病気にも負けてしまうかもしれません。ゴルフがあったから、再起できたと思っています。

鳥羽理事長 私の友人の医者が大病で亡くなったのですが、亡くなる2か月前に一緒にゴルフをしました。その時、友人から「最後にゴルフができて良かった」と喜んでもらいました。寿命は仕方ありませんが、一生涯できるスポーツだなと。友人の言葉を聞いて、ゴルフをやってきて良かったと本当に思いました。

池谷会長 今年1月、前立腺がんの手術をしました。先生に「いつからゴルフができますか」と聞いてしまいました。ゴルフをやっていると、気持ちが前向きになります。

鳥羽理事長 ゴルフをすることは本当に貴重です。本当に好きな楽しみの一つとしてゴルフができるという事は、人生の張り合いとしか言い様がないですね。

池谷会長 こうした素晴らしい面を数多く持っているゴルフを、より多くの方に始めてもらい、認知症予防、心を含めた健康維持に役立てていただく。ゴルフ界、医学界が一緒になって取り組んでいけたらと願っています。本日はありがとうございました。

 

構成・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)

 

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