「世界」に認められた女性グリーンキーパー ZOZOチャンピオンシップでカップ切りを担当した尾崎めいさん、高橋歩美さんインタビュー

2024年まで千葉県のアコーディア・ゴルフ習志野カントリークラブで開催された米PGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」でカップ切りを担当した尾崎めいさん(35)と高橋歩美さん(25)。男性中心のイメージがあるコース管理の仕事で、その技術を世界最高峰の米PGAツアーに認められ、尾崎さんは2021年東京五輪のゴルフ競技でも男女の大会を通じてカップ切りを担当した。このゴルフ界において、「コースメンテナンス」の分野で活躍する女性2人に話を聞いた。

「子供の時から動物や自然に興味があった」(尾崎さん)
「自然の中で働けるのはいいなと思った」(高橋さん)

――尾崎さんは現在、アコーディア・ゴルフが運営する千葉県のニュー南総ゴルフ倶楽部でアシスタントコースマネジャーを務め、高橋さんは同じく奈良県の奈良の杜ゴルフクラブの副主任です。コース管理の仕事に就くようになった経緯を教えてください。

尾崎さん 私は沖縄県の那覇市出身で、琉球大農学部を卒業してアコーディア・ゴルフに入社しました。子供の時から動物や自然に興味があり、大学では農道や農業用ダムを作るなど農業を支えるインフラを整える農業土木を専攻していました。だからゴルフのことはほとんど分からず、芝生に種類があることさえも知らなかったくらいです。ところが大学の就職説明会でアコーディア・ゴルフの人事担当の方から「ゴルフ関連ですか、それとも芝生関連?」と言われて「芝生? それ、どういうこと?」と興味を持って説明を聞いて、さらに全国のゴルフ場に転勤で異動することもあると知って魅力を感じたのが最初でした。

高橋さん 私は東京の二松学舎大文学部の都市文化デザイン学科卒で、躰道(たいどう)という空手から派生した武道に打ち込んでいました。ゴルフとは全く縁がありませんでしたが、体を動かす仕事に就きたくて、自然の中で働けるのはいいなと思ってアコーディア・ゴルフに入社しました。1年目はまずカップ切りから教わり、その後に芝を刈ることなども覚えていくようになり、ZOZOチャンピオンシップのカップ切りは入社2年目の2023年と、昨年に担当しました。多くのギャラリーの方がいる前でカップを切ることもあり、すごく緊張したことを覚えています。

――尾崎さんは2019年の第1回大会から昨年まで、ZOZOチャンピオンシップの全大会でカップ切りを担当しました。それより前の17年には、成田ゴルフ倶楽部で開催された米PGAツアーチャンピオンズ、JAL選手権でカップを切っています。

尾崎さん はい、JAL選手権の時はまだまだ若手でしたが、それまで私の仕事を見ていた上司から「カップ切りをやってみるか?」と言われて驚きました。アコーディア・ゴルフ系列のゴルフ場で10年、20年以上働いている大先輩たちが全国から集まっている中でカップを切らせていただいたので、プレッシャーはすごくありました。でも、その中で選ばれたからには、求められていることはやり尽くそうと思って取り組みました。

――その時に指導を受けた米PGAツアーの当時のコース担当者だったデニス・イングラムさんに技術などを認められ、ZOZOチャンピオンシップでもカップ切り担当に指名されたわけですね。日米のコース管理の違いなどはありましたか。

尾崎さん はい、カップ切りにフォーカスすると、PGAの試合はカップの周りを白く塗るところまで、コース管理が担当します。日本の大会では競技委員の方が塗るので、初めての経験でした。最初は白色スプレーの色がうまく乗らず、塗るのに特化したスプレーを使うようにして、ようやくうまく出来るようになりました。塗り方はデニスさんが教えてくれたのですが、言葉の壁もあって、伝えてくるものを何とかくみ取るのに必死でした。コース管理の違いということでいえば、効率を重視する日本はグリーンが隣接しているホールがあれば、それらのカップをすべて切ってから移動します。ところがPGAは、1番、または10番から、数字通りに順番に切ることを求めます。大きな試合で大人数で作業すると、人によって進め方が変わったり、抜け落ちてしまったりする恐れがあるからだと思います。

2021年東京五輪でもカップ切り担当に抜擢。
「信頼を得られたということで嬉しかった」(尾崎さん)

――尾崎さんは21年の東京五輪ゴルフ競技でも、会場となった霞ヶ関カンツリー倶楽部のカップ切りを男女の大会とも担当していました。

尾崎さん はい、デニスさんから、カップ切りを担当してほしいと声を掛けていただきました。私と、同じくアコーディア・ゴルフの女性スタッフとの2人で担当しました。最初に聞いた時は「オリンピックに私がですか?」と本当にビックリしました。しかも名門コースなので恐れ多くて、緊張したことを覚えています。ただ、デニスさんから指名されたということは信頼を得られたということでしょうし、嬉しかったです。オリンピックはPGAツアーのレギュレーションで競技を行ったので、そのノウハウをこれまでの大会を通じて知っていたことも大きかったと思います。

――オリンピックの雰囲気はどうでしたか。

尾崎さん やはり違いました。ZOZOチャンピオンシップも海外の方がたくさんいて、日本の普段の雰囲気とは違うのですが、オリンピックは参加する国や地域の数がはるかに多いので、全く異なっていました。また、アコーディア・ゴルフ系列以外のゴルフ場で作業をさせていただき、細かいところの違いなども勉強になりました。

――ZOZOチャンピオンシップに話を戻すと、大会ではアコーディア・ゴルフ系列のゴルフ場からどのくらいのコース管理担当者が応援に来ていたのでしょう。

尾崎さん 150人くらいです。そのうち女性は1割くらい。北海道から沖縄までのコーススタッフがこれほど集まることは普通はありませんし、宿泊するホテルもみんな一緒だったので、自分のコースはこのような方法で管理しているとか、参考になる話をたくさん聞くことができました。昨年限りでZOZOチャンピオンシップが終了し、今年からベイカレントクラシックという新規大会となり開催ゴルフ場も変わるので、このように集まる機会がなくなると思うと寂しいです。

高橋さん 私も関西のゴルフ場にいると関東などの方たちと一緒に作業する機会はないので、大会が終わるのは寂しいです。本当にすごく勉強になりました。

――ZOZOチャンピオンシップの中で、最も印象に残っている大会は?

尾崎さん やはり第1回の19年です。2日目が大雨の影響で中止、順延となり、翌3日目の土曜日もコース入りした時は10番ホールが水没していて姿も形も変わっていました。ほかのホールも甚大な被害があった中で、120人のスタッフ全員が「絶対に試合ができるようにコースを元に戻すぞ」と必死に整備し、団結とはこういうことなんだと思いました。土曜日はギャラリーの安全を考慮して無観客で試合を日没まで、そして日曜日は第3ラウンドの残りと第4ラウンドの途中までを行いましたが、この時は第3ラウンドの最終組の後ろからついていき、第4ラウンドに備えたカップ切りをしました。大ギャラリーが見つめる前でしたから、すごく思い出に残っています。月曜日に第4ラウンドの残り7ホールを行った末にタイガー・ウッズ選手が優勝を決めた時は、達成感というよりホッとした気持ちの方が強くて「終わったー」という感じでした。

高橋さん 私は24年の大会が思い出に残っています。作業応援は22年からでしたが、この年は初めてカップ切り担当として1日目から最終日まで、インのすべてのホールで私が切りました。繊細な作業を4日間、納得のいく形でやり通せたのが、自分の中ですごく自信になりました。

試合でのカップ切りは一発勝負。ピンを垂直に立て、グリーンに段差を作らないように埋め戻し。

――カップ切りというのは、それほど難しい作業なんですね。

尾崎さん カップ切り自体は通常の営業時も毎日行っている作業なのでそれほど難しいことではないのですが、試合の時はカップの位置があらかじめ決められているので、失敗が許されない一発勝負です。まず、ピンを真っ直ぐ垂直に立てること。また、芝生と土の部分を合わせて30センチくらいの深さを掘り抜くわけですが、道具の力の入れ具合にはコツがあり、さらに雨の日などは水を含んで土も締まりやすくなっているので、注意しています。そして、くり抜いた土と芝を再び戻して穴を埋める作業は、埋め戻しというのですが、周囲の芝と高さをそろえなければパッティングに影響が出ますし、グリーンを刈る時も、その部分の芝生だけ根っこから刈ってしまってダメにしてしまうこともあるので、手早く綺麗に仕上げられるようになるにはある程度の経験が必要です。

高橋さん 天候にも左右されますし、砂と土の混ざっている割合でも数センチ、数ミリの微妙な違いで影響は出ます。段差が出てしまうとそれを修正する作業もしなければならず、新人のころは大変でした。

――その他にもフェアウェイの芝生やバンカーの整備など、コース全体を管理する作業は大変だと思いますが、ズバリ聞きます。コース管理という仕事を女性には薦めたいですか。

尾崎さん 人を選ぶと思いますが、私は高橋と同様に自然の中で体を動かす方が自分に合っていると思ったことも、この仕事を選んだ理由でした。確かに夏は暑いし、冬は寒いですが、同じように思っている方には向いていると思います。農作業などと同じように、自然の中で働く仕事として当たり前のようにゴルフ場も頭に浮かぶようになってほしいとは思っています。

高橋さん 大変な仕事ですが、グリーンを刈った時にきれいな刈り込みのラインが出来た時などは達成感もあり、成果が目に見えて分かる仕事でもあります。やりがいはありますし、お客さまから「暑いのに頑張っているね」などと声を掛けられる時もあり、そういう時は嬉しいし、楽しいですね。

尾崎さん 成果が目に見えて分かるという点では、猛暑の時などにグリーンに散水するタイミングも、その一つです。湿度なども関係していて、水をまきすぎてもよくありません。その見極めは難しく、まだまだ勉強中です。

高橋さん 芝生の状態が悪いのは、明らかに茶色になってしまっている時は分かりますが、その一歩手前は見極めが困難で、やはり経験かなと思います。

尾崎さん 私も芝生の病気は、最初は見分けがつきませんでした。でも、ある日突然に、これは病気だと分かるようになりました。蓄積されてきたものが一気に開く時もあるので、あきらめずに続けることが大切だと思います。

――夏はスキンケアや熱中症予防も必要になります。

尾崎さん スキンケアに関しては、紫外線UVBを防ぐSPF値が20の日焼け止めの上に50のものを重ね塗りすることを先輩から教えられました。熱中症対策は、沖縄にいた時から一口サイズで塩分とミネラルが摂れる粒黒糖を食べていて、麦茶を飲みます。

高橋さん スキンケアは日焼け止め。また、UVカットのアームカバーで熱中症対策も兼ねています。あと、冷却スプレーもよく使いますね。

女性がもっと楽しめるようにレッドティーの位置をさらに前へ。「男性と同じペースで回れることが嬉しい」

――ゴルフは年齢に関係なく、みんなで楽しめる素晴らしいスポーツだと思います。女性にもっと親しんでもらえるようにするためには、どうすればいいと考えますか。

尾崎さん 例えば男性が打ったティーショットの位置まで、女性は2打、3打を打たなければ追い付けないことがあります。そうするとセカセカしてしまって、落ち着いてプレーできませんよね。そうならないために、アコーディア・ゴルフではレッドティーの距離を見直し、ティーの位置を前に押し出すようにしています。最初は「こんなに前から打つの?」と思うかもしれませんが、実際にプレーするとすごく楽しいんですよ。スコアがよくなることもそうなんですが、男性と同じペースで回れることが嬉しくて、個人的には大満足でした。ニュー南総ゴルフ倶楽部も、そのようなティーグラウンドを作る作業を続けています。

高橋さん 私は大学の時にゴルフがもっと身近に感じられたら、初めてみようと思ったかもしれません。女性がゴルフに親しんでもらうためには、きっかけ作りも大切だと思います。

尾崎さん 確かに私の地元沖縄でも宮里藍選手のようなスター選手がいるから、ゴルフというスポーツが存在していることはみんな知っています。でも、それを自分の生活とリンクさせることはなくて、ルールなども専門用語が多くて難しい印象でした。そのようなハードルを低くしていくことも、必要ですね。これからも女性がもっとゴルフに接して、楽しんでプレーできるように、いろいろ取り組んでいけたらと思います。

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尾崎さん、高橋さんによるカップ切りの様子は、JGAゴルフ振興推進本部の公式インスタグラムからご覧いただけます!
https://www.instagram.com/reel/DM7YrCrTtEt/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==
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構成・鈴木遍理(情報シェアリング部会委員)

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