ゴルフ界全体で女性の健康と命を守ってほしい:乳房健康研究会・栗橋登志理事インタビュー

認定NPO法人 乳房健康研究会
栗橋 登志 理事

ピンクリボン活動 世の中のみんなで進めていけば女性の命を救うことにつながる

――スポーツ界では女性の活躍が注目されるにつれて、女性の健康と命を守る運動も盛んになっています。ゴルフでも女子プロゴルフ協会(JLPGA)の選手らが乳がんの早期発見、早期治療を目指すピンクリボン活動に積極的に関わるなど、発信に努めています。乳がん啓発運動を推し進める乳房健康研究会の栗橋登志理事は、このような動きをどのように見られていますか。

栗橋理事 私は、1970年代は警察官として、パトカーから交通安全を呼び掛けていました。当時は交通事故による死者が年間1万5000人以上を数え、交通戦争とも呼ばれた時代です。それが今は、年間3000人くらいになっている。なぜかと言えば、世の中の皆が交通事故を減らそうと関わってくださったからです。トラック業界やタクシー業界など、交通違反の切符を切られることに「勘弁してくれ」と言っていた人たちが、一緒になって交通安全のための運動をやってくれた。乳がんの啓発運動も同じで、世の中のみんなで進めていけば、女性の命を救うことにつながっていきます。

――栗橋理事は自らも乳がんなど大病を患い、それを克服されて今ではゴルフも楽しんでいると聞きます。そのような背景があるから、ピンクリボン活動などにも一層、積極的に関わっているのですね。

栗橋理事 ゴルフを始めたのは19歳のころからですが、警察官になって仕事が忙しくなり、ずっと遠ざかっていました。姑の介護もあって現職の警察官をやめたあと、30代後半になって左ひざに腫瘍ができ、半月板を除去した後のリハビリの一環として39歳で再びゴルフを始めました。ところが9年後に今度は乳がんが発覚し、再び手術。その時は「ゴルフをまたやるんだ」の一念で治療に向き合いました。抗がん剤の薬で鬱になってしまう方もいますが、私の場合はゴルフ仲間が「またゴルフ場に出ておいで」「ゴルフができなくてもカートに乗ってついてくるだけでもいいじゃん」などと励ましてくれて、それが希望になりました。そのうち、子宮の摘出手術を受けた人とか、病み上がりの仲間も増えてきて、今では「病み上がり組」なんて自分たちで名付けて旅行に行ったりもしています。2021年には左ひざの人工関節置換手術も受けましたが、大きな手術を受けるたびに、その時の体に合ったフォームに改造して楽しんでいます。

ホールインワン2.5回!? 乳がんから復帰後に

――乳がんから復帰後にホールインワンも2度達成されたとか。

栗橋理事 はい、1度目は2011年の競技会で103ヤードをピッチングウェッジで。2回目はそれから5年後の16年、135ヤードでした。その時は直前に車のドアに左手人差し指を挟んでしまい、6番ユーティリティーでコンパクトに打ったら入っていました。後から検査したら、指は骨折していました。あっ、それからサブグリーンになぜかカップが切られていたことがあって、そこに入れたこともあります。だから自分ではホールインワンを2.5回達成したと思っているんです。

――ミラクル続きですね。感服します。その中でピンクリボン活動に関わるようになったきっかけを教えていただけますか。

栗橋理事 乳がんの治療が一段落した2009年ごろから、この病気は病院における治療だけではなく、外でもつらいことや不便なことがたくさんあることに気付き始めました。そのような方たちをサポートしながら、自分が暮らす地域で出来ることはないかと思った時に、ピンクリボン活動があることを知りました。乳房健康研究会は乳がんの早期発見、早期治療を目標としていて、乳がんのことを知らない人に伝えるべきことを伝え、救われる人を増やしていこうと、活動に従事するようになりました。実際、私も乳がんを宣告されるまでは、自分で乳房を触ってチェックすることの大切さなど、知らないことがあまりにも多かったのです。だから、若い人にぜひ教えたい。そう思うようになりました。

――ただ、検査を受けることは大切だと分かっていても、なかなか踏み出せない人も多いのでは。

栗橋理事 例えば乳がんのマンモグラフィー検査は痛いということだけが独り歩きしていて、どうして痛いのか、その理由が世の中に広まっていません。検査で胸を平たく伸ばすのは、きれいに伸ばすほど乳腺の端っこまで画像を撮ることが出来て、見落としが少なくなるからです。確かに痛いかもしれませんが、検査は胸を2方向から撮影します。1回の撮影 時間は約10秒、両胸の撮影で40秒の我慢です。その短い時間を我慢することで、自分の命が救われることもある。また、年齢が高くなるに従って痛みが少なくなり、若い人でも生理の直後はホルモンの関係であまり痛みを感じません。そういうことをどのような言葉で声を掛ければ広がっていくのか、いつも考えています。

男性がサポートすることで検査を受ける人を増やすことができる

――栗橋理事は、そのようなことをしっかり説明できるピンクリボンアドバイザーという認定も持っています。

栗橋理事 私は医療者ではありません。でも認定試験を受けて認定されることで、いろいろな人に声を掛ける時でも信用されるようになります。ピンクリボンアドバイザーの資格を持つ人は1万8000人、うちアクティブに活動している人は7000人で、4割が私のような乳がんサバイバーです。検査を受けることに躊躇している人の中には「背中を押してほしい」と思っている方も多くいるはずです。私たちが街中で声を掛けて背中を押すことで、一歩を踏み出し、検査を受けることのハードルを少しでも低くできればいいと思っています。

――夫や恋人、または会社の上司が検査を勧めることも、大切だと思います。ただ、なかなか言い出せないという声も、男性からはよく聞きます。

栗橋理事 大切な会社の部下であり、恋人であり、奥さんではないですか。上司が乳がん検査のために有給休暇を取らせてくれて、早期発見できたという人もいます。日本の検査率は50%に届かず、欧米の60~70%には遠く及ばないし、韓国よりも少ないのです。男性がサポートすることで、検査を受ける人を増やすことができます。例えば仕事をしている男性でも、平日にゴルフに行くことは年に何回かあるかもしれません。そのような時をきっかけにして、奥さんに「今日は家事はいいから、検査を受けてきてほしい」と勧めてもいいじゃないですか。ゴルフが素晴らしいスポーツだと思うのは、他人の弱点を突かず、それどころかボールをみんなで探したり、協力しあうことだと思っています。それほど素晴らしいスポーツなのですから、ゴルフ界全体でピンクリボン活動にも一層、取り組んでほしいのです。欧米では、がんサバイバーの方たちが社会からたたえられ、大切にされます。日本でも、がん患者やサバイバーが差別されることなく、社会にもっと溶け込みやすい環境をつくっていければと思います。

「世の中のみんなで参画する」それが健康と命を守ることの近道かと思います。

交通安全活動は、半世紀での実績を私は経験しております。健康を守ることに、心身共に健康なゴルファーの優しいプレーヤー精神でのご協力と近い人へのお声かけがあれば嬉しいです。

 

 

構成・鈴木遍理(情報シェアリング部会委員)

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