医学博士で循環器内科、スポーツ医学が専門の久岡英彦(ひさおか てるひこ)・順天堂大学院特任教授は、一般社団法人関東ゴルフ連盟(KGA)に一昨年から設置されたゴルフ振興委員会医学部会の部会長に就任し、2024年2月に発表された「高温時における具体的行動指針(ガイドライン)」のとりまとめを担当しました。
霞ヶ関カンツリー倶楽部のメンバーとしてゴルフライフを楽しんでいる久岡先生に、ゴルフと健康について、高温時のゴルフへの準備や熱中症への注意点についてお話ししていただきました。
――まず久岡先生のゴルフとの出会いとゴルフ歴についてお話ください。
20歳ころからゴルフはしていましたが、プライベートのプレーだけでした。2003年に霞ヶ関カンツリーに入会したのが本格的なゴルフとの出会いだったように思います。
先輩から教えを受けながら、ハンディキャップという目標があります。同じ業界だけではないいろんな人に接することで世界が広がります。ありがたいことだと思っています。
――循環器内科、スポーツ医学の立場からゴルフと健康についてお話しください。
やはりゴルフは歩いて体を動かして18ホールを回ることで非常に良い運動です。速足で歩くことは心肺機能によく、保持されることにより、健康寿命が延びる。仲間と常にコミュニケーションをとることで認知症の予防にも役立っている。ゴルフで元気になる、元気だからゴルフができる、という循環になればとても良いことだと考えています。
――気象庁の長期予報では今年も初夏から高温になる傾向にあるようです。ゴルフでの熱中症を防ぎ、事故にならないようにするための注意点を教えてください。
暑さに向かうこの時期に大切なのは「暑熱順化」です。体を暑さに慣れさせることです。日常生活の中で、入浴や適度な運動で、汗をかいて体温を下げる働きを準備するのです。体が冬の状態だとこの働きがすぐにはできないのです。暑熱順化には個人差もありますが、数日から2週間程度かかります。無理のない範囲でウォーキングやジョギング、適度な運動、入浴で暑さへの備えをしましょう。
ゴルフをプレーする前のことでいえば、自身の体調管理です。ゴルフ中の心筋梗塞などの事故例で多い原因は、持病のある方の体調不良、前夜や当日のアルコール摂取です。よく言われるようなパットのときの緊張感から、というのではなく、やはりティーショットを打って歩きだしたときに起こることが多いようです。
ゴルフを楽しくするためには、事前の体調チェックで異変のあるときは勇気をもってプレーをやめる。飲酒はプレーが終わったあとの「19番ホール」で楽しむことを心がけていただければと思います。
――実際にラウンドするうえでの注意点はどうでしょうか。
まずは朝食です。プレー前にはしっかりと朝食をとってください。1日の最初に食べる朝食で水分や塩分をしっかり補給しておくことが重要です。次にプレー中の水分補給です。これには塩分の入ったスポーツドリンクが有効です。水だけのものばかり飲んでいては低ナトリウム症になってしまいます。また、服装は、半そで、短パンなどの軽装薄着が適しています。活動中はシャツを外に出すことで体温の上昇が3度から4度抑えられると考えられます。クラブによっては、ドレスコードとの兼ね合いがありますが、最近ではプレー中のシャツの外だしなどを認めるところも増えてきています。
――かつてない暑さを経験する時代になってゴルフ場にも熱中症対策が不可欠になっています。
2021年に東京オリンピックのゴルフ競技が実施された霞ヶ関カンツリー倶楽部では、IOC・組織委員会が、人が入れる水風呂(アイスバス)が用意されていました。高温多湿が予想されていたためです。熱中症で上がった体温を下げるのに有効です。私の後輩でKGAジュニア強化委員会の参与が、熱中症専用のアイスバスを寄贈してくれました。KGAの競技ではできるかぎりこれを準備したいと考えています。
アイスバスでなくても、「前腕冷却」も効果があります。バケツなどの水のたまる容器を茶店などに用意しておき、これに前腕と手のひらを入れて冷やします。13度から15度くらいの水温で痛みを感じることなく、体温を下げることにつながります。大きな容器がないような場合には冷やしたペットボトルを握ったり、水を前腕や手にかけることでも熱放射が促進されます。
これらのことは、KGAが編纂した「高温時における具体的な行動指針(ガイドライン2025年版)」に、詳しく、具体的に書かれています。KGAから加盟コースや他の地域の協会にも送っています。またKGAホームページ上の「ゴルフ振興」のコーナーで見ることができます。ゴルフ場のみなさん、プレーヤーの皆さんにぜひ活用していただき、安全にプレーを楽しんでほしい、と願っています。
久岡 英彦(ひさおか てるひこ)
順天堂大学医学部附属順天堂医院 総合診療科 特任教授。循環器内科を専門とし、救急医療、内科学全般にも精通。突然死や不整脈、救急医学をテーマに研究を行うほか、医療現場での実践的な総合診療、地域医療連携にも力を注ぐ。
(情報シェアリング部会・古谷隆昭)