みどりの処方箋 植物が人に与える効果:千葉大学大 岩崎寛教授

日本でただ一つ、学部として園芸学部を持つ千葉大学の岩崎寛教授は、植物が人の心身に与える健康効果を研究、論文や著書の「みどりの処方箋―ヒーリング時代の緑の使い方」(グリーン情報)などで発表しています。芝生や、樹木、花壇などに包まれた環境にあるゴルフ場で過ごすことが、そこでプレーする人の健康増進や維持、心身のリラックスなどにどんな効果があるのかを含めてお話をしていただきました。

――まず、植物が人に与える効果についての研究をお話しください。

多くの人は植物、緑が体に良いと感じていると思います。森林浴などがその例です。しかし、どこがどうなって良いのか、そのメカニズムがわからない。そこで、そのエビデンスを出していこう、とうことから研究がはじまりました。そのための具体的な実験例を紹介します。

都市公園にある芝生地とラベンダー畑の中に椅子を置いて5分間座って休憩してもらいました。休憩する前と後で血圧やストレスホルモン等を測定し、植物のある空間で休憩する効果について調べました。最初はうまくいかなかったのですが、医学部の先生にも相談してもともと高血圧のグループ、正常値のグループ、低血圧のグループに分けて実験したところ、「これだ」という結果が出ました。

血圧の変化でみると、高血圧のグループの人は値が下がり、正常の人は変わらず、低血圧の人は値が上がる。つまりどのグループの人も正常値の範囲に入ってくるようになるわけです。

もし植物の効果が血圧を下げることだけなら、正常値のグループ、低血圧のグループでも血圧が下がることになるのですが、そうではありませんでした。植物の効果というのは、どのグループの人にも、元の正常な状態に戻していくことなのです。

こうした生理的な測定と同時に心理的な効果の測定も行いました。左右に相反する形容詞を並べて対象物に対して感じた印象を5段階や7段階で評価してもらうSD法という心理学分野では一般的な手法です。結果は芝生地、ラベンダー花壇のどちらで休憩してもおおむねポジティブな良い印象を持ったことがわかりました。

――植物がどのようにして人の心身に効果を与えるのか。そのメカニズムを教えてください。

人はさまざまな環境の変化に対応して体内の状態を一定に保って生存を維持しています。「神経系」、「免疫系」、「内分泌系」の3つの系のバランスにより維持されています。このバランスが崩れると体に支障が生じるようになるのです。最近多いのが「ストレス」をきっかけにした体調不良です。人にストレスがかかると。「神経系」に刺激が与えられます。神経系とは自律神経(交換神経、副交感神経)のことです。自律神経への刺激が内分泌系に伝わるとストレスホルモンを分泌し、免疫系に伝わればウイルスなどへの抵抗力が低下します。

植物は、この3つの系に直接的に作用するわけではなく、体調不良のきっかけである「ストレス」を、緑とかかわることによって軽減・緩和するのです。緑は間接的に各系に作用して体調を元の良い状態に戻す作用があるのです。植物は自分で動くことができないので、さまざまな刺激に対して元の状態に戻ろうとする「自然治癒力」にすぐれています。植物と関わることで、人も自然治癒力が上がるわけです。

――ゴルフ場という環境についいてはいかがでしょうか。

芝生が多くあり、樹木も自然に近い状態にあり、花や景色など視覚的な癒しもある。植物とこの空間で関わることで、人に対して心身ともにさまざまな効果があると思います。

――「緑と運動」というテーマの研究も発表されています。

実際に「緑地空間」でウォーキングした際の効果を調べる実験を紹介します。

ウォーキングによる肉体的な運動は、場所にかかわらず良い効果があると考えられることから、「精神的な効果」に着目し、運動する場所による違いについて実験しました。

同じ都市公園内にある緑の多い「緑道」と緑が少ない「車道」で同じ距離を歩いた際の心理的な効果を測定しました。結果は、緑道を歩いたほうが、車道を歩くよりも、ネガティブな感情である「緊張―不安」「疲労」「混乱」が低く、ポジティブな感情である「活気」が高いことがわりました。緑の多い空間でのウォーキングは、車道でのウォーキングに比べ、落ち着いて、安心して楽しみながら歩けること、さらに同じ距離を歩いているにもかかわらず、緑道のほうが「疲れにくい」と感じることを意味しています。

――ゴルフ場を歩くことには大きな効果があるということでしょうか。

ゴルフ場で歩くことは、まさに緑道を歩いていることになり、精神的な効果が大きいということになります。また、硬いアスファルトを歩くより、柔らかく、平ではない不安定な場所も含まれるところのほうが、体のコアの筋肉も鍛えられることから、バランス感覚にも効果があると考えられます。などに効果があると考えられます。

ゴルフ場は植物と関わる空間で過ごすことで、ストレス緩和の効果で人の心身への効果があり、緑道を歩くことで、精神的な効果も大きいと考えられます。緑の効果を受ける環境がそろっています。

――植物の健康効果の研究はいつごろから始められたのでしょうか。

20年ほど前からです。そのころは「緑が健康に良い」というと、怪しいと思われる時代でした。しかし、今では、世の中に「ウエルビーイング」の考え方が広まり、多くの人が健康について考えるようになり、植物の効果を実感するようになってきました。とくにコロナ禍から、密を避けて公園に行く人が増え、緑との関わりを持つようになってきています。都市開発をみても、最近では緑地を残す、作り出す計画の方が多くなってきています。大手ゼネコンなどは、早くから緑の効果について目をつけていたようです。

現代は「ストレス社会」と言われ、また日本は超高齢化社会でもあります。そこで植物の出番です。緑による心や体への健康効果、さらには緑によって、人と人がつながる社会的な健康効果などが明らかになってきています。

岩崎 寛(いわさき ゆたか)
千葉大学大学院園芸学研究院教授
京都市出身。京都府立大学農学部卒業。岡山大学大学院修了。農学博士。2005年から千葉大学勤務。専門は緑地福祉学、環境健康学。人と植物とのより良い関係について、緑地や植物からの視点だけでなく、医学、看護学、工学、心理学などさまざまな視点から研究を進めている。

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