《シリーズ対談》第2回 ゴルフと健康増進

鳥羽 研二 東京都健康長寿医療センター理事長・医学博士・ゴルフ振興推進本部参与(左)
東 憲太郎 全国老人保健施設協会会長(右)

 

鳥羽研二・東京都健康長寿医療センター理事長  本日は全国老人保健施設協会会長の東憲太郎先生にお越しいただき、「ゴルフと健康増進」についてお話を伺いたいと思います。世界保健機構(WHO)などで、ゴルフは健康に寄与するというエビデンスが出ています。また、イギリスのR&A(Royal and Ancient Golf Club of St Andrews)から昨秋、ゴルフ振興の責任者、ドミニク・ウォール氏が日本女子オープンの時に来日し、ゴルフと健康の効用について多くの示唆に富む内容の記者会見を行いました。日本ゴルフ協会(JGA)も、R&Aと歩調を合わせてゴルフの振興に取り組むことになり、その一環として、このシリーズ対談が始まりました。

東先生にまず、全国老人保健施設協会について、お伺いしたいと思います。福祉の現場で非常に重要な活動をされているとはお聞きしていますが、どのような組織で、どのような活動をされているのか、ご説明いただけますか。

東憲太郎・全国老人保健施設協会会長  老人保健施設は、わが国独自のものです。単なる要介護、高齢者の終生(入所からなくなるまでみる)施設、いわゆる特別養護老人ホームとはまったく性格が異なります。要介護の方を、できるだけ住み慣れたご自宅で暮らしていただくことを支援するという、重要な機能を持っています。海外にあるナーシングホームのような終生施設ではありません。我々は在宅の高齢者を支える使命を持っています。

フレイルやプレフレイルの方の身体機能や認知機能の改善に寄与

鳥羽理事長  老人保健施設協会は、要介護の方を見られているほかに、近年、フレイル(以前は健康な方でも、加齢や慢性疾患により身体機能や活力等が低下し、心身や社会的なストレスに対し脆弱性が増した状態になること)を防ぐ介護予防もされていると聞いています。

東会長  要介護認定を受ける前のフレイルや、その一歩手前のプレフレイルの方にも、老人保健施設が関わっていくべきだと考えています。在宅を支援するためには、要介護になる前から関与することが大事です。介護予防サロン事業を行っていますが、それは老人保健施設が、フレイルの方にどのような事ができるかと考えて始めたものです。フレイルやプレフレイルの方の身体機能や認知機能の改善に効果があるというエビデンスも出ています。今後は全国展開していきたいと考えています。

鳥羽理事長  要介護の方、フレイルの方を支援するために様々な手法があると思いますが、運動も取り入れられているのでしょうか。

東会長  先ほど、在宅を支援すると言いましたが、たとえ要介護になっても、在宅で生活するためには、身体機能や認知機能を維持する、あるいは改善することが重要なカギとなります。そういう意味で、老人保健施設の大きな仕事の一つがリハビリテーションです。ここに運動が関わります。全国老人保健施設協会は約10年前、認知症短期集中リハビリテーションという方法を作りました。その時には、鳥羽先生にも研究班の委員長としてお手伝いをいただきました。医療機関や様々な施設の中で、認知症のリハビリテーションを積極的に行っているのは、老人保健施設だけであると言えます。

鳥羽理事長  リハビリテーションに関わる職種には、理学療法士、作業療法士など様々あります。そういうプロの方が、膝や腰が痛い方、足腰が弱い方に対し、できる範囲をよく見ながら無理のないようにリハビリテーションを行っていると考えていいでしょうか。

東会長  その通りです。老人保健施設は、医師、看護師等の専門職も常勤でいます。理学療法士、作業療法士、言語聴覚療法士、それから栄養士も含めた多職種の人が関わって、フレイルなどに対処できるのも特色です。

秘訣は毎日のストレッチと心を波立たせないこと

鳥羽理事長  無理のない運動ということで、後ほどゴルフとの関係をお聞きしたいと思います。先生ご自身がゴルフを始められたきっかけを教えていただけますか。

東会長  医師となって胸部外科の医局に入りましたが、そこの先輩に無理やりゴルフの道具を買わされ、練習を一度もしないでコースに行ったのが、きっかけです。第1打は空振りでした。2打目はシャンクで池ポチャ。最初のラウンドは156で回った記憶があります。

鳥羽理事長  現在のラウンドの頻度やハンディキャップを教えてください。

東理事長  おおよそ週に1回のペースです。ハンディキャップは、四日市カンツリー倶楽部の4です。シニアの年齢になってから、倶楽部のシニアチャンピオンを3回取らせていただきました。最初にシニアチャンピオンになったのは66歳の時です。

鳥羽理事長  ゴルフを含めてご自身の健康管理について教えてください。

東会長  若いころは、両肘を痛めるほど練習場に熱心に通っていました。今は、全国老人保健施設協会の会長を務め、診療も行っていますので、忙しくて練習に行く暇がありません。そのため、週に1回のラウンドを非常に大切にしています。ラウンド前には必ず、20分間のストレッチをします。それから毎日、寝る前に背筋、腰のストレッチを20分ほど入念に行っています。ただ、やっていることはそれだけです。

鳥羽理事長  東先生は、ラウンド前に練習しているのを見たことがありません。

東会長  ラウンド直前の練習は、いいショットが出ると調子がいいなと思って、本番で力むものです。悪いショットが出ると、今日は駄目かなと思ってしまう、どちらにしてもメンタルには良くないと思います。ラウンド前にやるのはストレッチと素振りだけです。我々アマチュアにとってゴルフは体よりもメンタルが8割を占めると考えています。ラウンド前にわざと練習をしないのも、ストレッチを十分に行うのも、メンタルを安定させることが大事だと思っているからです。心を波立たせないことが、ゴルフでは大事だと思っています。

鳥羽理事長  息子さんとはゴルフをされていますか。

東会長  一緒に回ると、5回に4回、勝ちます。彼は、私の30代の時のゴルフと一緒です。メンタルが揺れ動きますから。何とか挽回しようとしたり、ガツガツ行ったりします。

鳥羽理事長  先生の施設の方とコンペとかもされているようですが。

東会長  最近、若い人がゴルフに興味を持たれているようですが、私の施設でもソーシャルワーカーとか介護職の方もゴルフをやりたいということで、月に1回は一緒に回っています。病院も含めて女性も3,4人います。

私の四日市カンツリーの先輩で、世界シニアアマを2回勝った人がいます。82歳前後だと思います。20年ほど前、「ドローとフェードのどちらを打とうとされているのですか」と尋ねたところ、「意図的に曲げようと思ったことがない。まっすぐ打とうと思ってドローしたらフェアウェイの左にあるし、フェードしたらフェアウェイの右にある」と言われたので、感心したことがあります。いつも心の波が一定のレベルでプレーされています。その方のプレーを見て、「ここがポイントだな」と学びました。その方のハンディキャップは、今でもゼロです。

鳥羽理事長  ゴルフが先生の健康維持にどのように役立っているか教えていただけますか。

東会長  ゴルフがなかったら、とっくに認知症か寝たきりになっていると思います。日頃、診療も移動も座っていることが多いですから、週に一度のゴルフのお蔭で体の筋力が保てていると思います、精神的にもゴルフのお蔭で健康でいられるのかなと感じています。

鳥羽理事長  ゴルフの魅力についてお話ください。

東会長  ゴルフの一番の魅力は、年齢にかかわらず、筋力がやや衰えても、あるいは少し認知症になってもできるところです。このようなスポーツは他にあまりないと思います。年をとっても、体が少し衰えても、本当に長くできるスポーツです。先ほどお話したように、80歳代になっても、素晴らしいゴルフをされている方が大勢おられます。

『介護予防サロン』は地域の「通いの場」

――最初にお話になった介護予防サロンというのは、どういうものですか。

東会長  介護予防サロンは、近隣の住民の中で、独り暮らしやフレイルの方を、施設から迎えに行って、火曜日の夕方の約2時間、ケーキを作るなどの作業をしてもらいます。お点前ができる女性高齢者がおられると、その方が立てたお茶をみんなで楽しむこともあるなど、様々な事をしています。

鳥羽理事長  以前、地域のコミュニティがしっかりしていた時は、地区のみんなが集まって話をし、碁や将棋などを楽しんでいました。でも、今はそういう場所が少なくなってしまいました。国の方では、「通いの場」として、高齢者が集まって会話を楽しんだり、軽い運動をしたりするなどの事業を全市町村でやって欲しいと指導しています。ところが、まだ4、5パーセントしか実施されていません。

私たちは、老化予防や認知症予防の観点から、弱くなりかけの人を早く見つけ、一緒に運動をしたり、楽しいことをしたりすることが大事ではないかと考えました。そこで、東先生にお願いして、元気なうちに集まっていただく介護予防サロンを作っていただきました。厚労省の事業として、東先生と一緒になって始めましたが、介護予防に加え、昔の地域コミュニティの役割を果たしていると思います。

フレイルなど少し弱った人は、放っておいても4分の1はまた元気になるのですが、運動したりするともっと良くなります。弱りかけた人が復帰してゴルフをする。18ホール回るのが難しければ、もっと安い料金で3ホールとかハーフを回れる仕組みを作るのも、一つの手かもしれません。高齢になっても楽しめるゴルフは、介護予防の点からも、大事なツールだと思います。これからも、多くの高齢者が元気で自宅で過ごせるような方法を、現場を知る東先生と一緒に考えていきたいと思います。

 

協力・茨城ゴルフ倶楽部

構成・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)

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