昨年10月、福島・矢吹ゴルフ倶楽部で開催された「JLPGA全日本 小学生ゴルフトーナメントinふくしま(日本女子プロゴルフ協会主催)」で、ホールインワンを1ラウンドで2度、記録した津止柑那(つどめ・かんな)さん。当時、小学3年生で、女性では世界で最年少(9歳と8日)の 達成者として、このほどギネスブックに認定された。柑那さんは今、「プロになって、リコーカップ(JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ)で優勝する」ことを将来の夢に挙げ、父の克明さんと練習に励んでいる。
――ゴルフを始めたのはいつからですか。
津止柑那さん あのね、パパ。柑那がゴルフを始めたのって2021年の3月じゃなかった?
津止克明さん 3年前、6歳の時ですね。
――始めたきっかけは、どのようなことですか。
柑那さん 小さい頃も、たまにプラスチックのクラブで遊んでいたけど、ちゃんと練習すれば、家族と一緒にコースに行けると思ったからです。
克明さん 家族は、私の父以外はゴルフをします。特に、90歳になるこの子の祖母、玲子が熱心で、その影響で、私、妻、私の姉、姉の息子2人、その奥さんまでがみんなゴルフをするようになりました。
――ゴルフを始めた時、難しいと思わなかったですか。
柑那さん 最初は120くらいたたいていたけれど、基本から教わっていったら、だんだんうまくなっていきました。
克明さん マンションの一室に、シミュレーターや弾道計測機器を入れた練習施設を作ったのが3年前で、ちょうどこの頃、柑那がゴルフを始めました。
――うまくなるために、どのような練習をされてきたのですか。
克明さん はじめはほぼ自由に打たせるだけでしたが、スイングに関しては小さなスイングから少しずつ慣れさせていきました。1ヶ月後には、ショートコースに連れて行きましたが、5ホールで疲れて帰ったのを覚えています。
始めて1年くらいたってから、円柱状のヨガポール(ストレッチポール)の上で素振りをする練習を始めました。もう、2年以上、毎日、30回か40回、ポールの上で素振りをしています。プロを目指すようなトップレベルのジュニアたちは、毎日、何百球も打っていると聞きますが、柑那にはそれほどの体力もなく、集中力もないのでピッチングウェッジを使って、ハーフスイングを中心にさせました。
最初の一振りは、子供用のユーティリティを使い、クロスハンドでティーアップした球を打ったのですが、これがナイスショットでした。何も教えていませんでしたので、この子は球を捉える感覚を持っていると感じました。
――それまでにやっていたスポーツはありましたか。
克明さん 今はやっていませんが、もっと小さいころから水泳と体操を続けていました。今は、トランポリンを習っています。
柑那さん 幼稚園の時には、バレエとかチアダンスもしていました。
――試合に出るようになったのは、いつごろからですか。
克明さん 練習を始めて1年と少したって、千葉市・北谷津ゴルフガーデンで行われた月例や、日本ジュニアゴルフツアー(JJGT)の大会に出たのが最初です。
――試合では知らない人と回ることになりますが、緊張しませんでしたか。
柑那さん 最初はドキドキしたけれど、JJGTの試合に初めて出た時、一緒に回った中学生のお姉さんたちが優しく向き合ってくれたので、大丈夫でした。
――そこから試合に出るようになって、試合の面白さは感じてきましたか。
柑那さん 世界ジュニア東日本決勝やJJGA東日本決勝の2日間競技では、2日目は1日目の自分よりいいスコアにしようということを目標にしました。
克明さん コナミのゴルフスクールに、始めて3か月くらいから通わせました。毎日、私だけと練習をしていると飽きてくるし、ゴルフをする友達に出会うためでもありました。そこには研修会があって、初めてのスコア取りがショートコースでありました。週1回の習い事として通っている子供たちが多いスクールでしたので、毎日、練習をしている柑那は、常に優勝候補でほとんど優勝していました。その成功体験のおかげで競技が楽しいということになったのかもしれません。優勝するとドラえもんのメダルがもらえるし。
柑那さん うんうん。
――お父様から見て、トップレベルになってきたと思われたのは、いつごろからですか。
克明さん 今でもトップレベルとはまったく感じていません。2歳上で、本気でプロを目指している友人の娘さんと比べると、柑那はまだエンジョイゴルフです。真剣に取り組んでいる同学年の子とも大きな差があります。
当然、試合でも勝てないことが多いのですが、そういう経験をすることはいいことだと考えています。負けて泣くことなどなかったのですが、最近、うまくいかなくて悔し泣きをすることがあり、少し違うステージに行ったのかなと感じています。エンジョイしたり、悔しがったりする。そのバランスが大事だと思っています。
――バランスポールに乗って素振りをする話がありましたが、毎日、行っている練習内容を教えてください。
克明さん 成長期ですし、ショット練習は100球までと決めています。他は、ボール投げなど、楽しみながら練習をしています。
まず、バランスポールに乗って、4種類の素振り棒を使い、10回ずつ素振りをします。棒を振る感覚と、体幹を鍛えるためです。
その後、56度のウェッジを使い、20ヤードくらいを右手だけ、次に左手だけで打ちます、そして両手を使って、それぞれ10ヤードから50ヤードまで、10ヤード刻みで10球から20球ずつ打ちます。ショット練習は、9番と7番アイアン、ユーティリティ、ドライバーの順で行います。時間がある時は、スポンジの上に乗って、ショットの練習をします。体幹を鍛えることと、同年代の子と比べて飛ばないので、飛距離アップのために右足で押せるようにするためです。
パターは、レールの上を転がして、1メートル、1.8メートル、3メートル、6メートルの距離を練習しています。
柑那さん あと、練習が終わった後、体のバランスが悪くならないように、左打ちの素振りも30回ほどしています。
――ホールインワンを2度、決めた話を教えてください。ギネスに認定されるほどの快挙ですが、達成した舞台が小学生では日本でトップの大会の一つ、「JLPGA全日本小学生ゴルフトーナメント」だったというのもすごい事だと思います。地区予選がある大会ですよね。
克明さん 関東地区予選に出ましたが、柑那のカテゴリーの小学校低学年(1年~3年)の部は、優勝しないと代表になれません。
柑那さん パパ、雷雨・・・
克明さん ああ、その時は、雷雨のためプレーが途中で打ち切られ、ハーフ集計で順位が決まりました。柑那は38で回って、1打差で代表になれました。後半も3ホール連続パー発進で、いい感じだったのですが。
――福島県の矢吹ゴルフ倶楽部での決勝で、2度のホールインワンを記録して優勝したわけですが、調子は良かったのですか。
克明さん 実は、直前にインフルエンザにかかってしまいました。練習もできず、出場をあきらめかけたのですが、6日前に熱が下がり、行くだけ行こうということになりました。その年の世界ジュニアで2位に入った子や西日本代表の子など、初めて世界レベルの子と同じ組になり、病み上がりだし、トップレベルのプレーを間近で感じながら表彰台狙いで楽しく回るという事を目標にしました。そうしたら、インスタートの2ホール目、11番でホールインワンをしてしまいました。
――何ヤードを何番で打ったのですか。
克明さん 使ったのは6番ユーティリティで、115ヤードでした。これは、私がジュニア用のクラブにさらに軽くて柔らかいシャフトを、柑那の身長に合わせて短く切って入れた“手作り”クラブです。
――2度目のホールインワンは、アウトの8番でしたね。優勝を決める1打にもなりました。
克明さん 前半は1打リードしていましたが、後半はひとりの子とシーソーゲームとなり、残り2ホールの時点で並んでいました。そうしたら、8番のパー3でまた入れてしまった。120ヤードで、同じ6番ユーティリティでのショットでした。ユーティリティは、この1本しか入れていませんが、よく使うこともあって、もともと得意にしているクラブでした。
――その時の気持ちは、どうだったのですか。
柑那さん それまで1度もホールインワンをしたことがなかったので、ビックリしました。その子のマーカーをしていたので、同じスコアだったことは知っていて、「やばー」って思っていました。優勝するために8番か9番で差をつけなければと考えて打ったら、入ってしまいました。
――周りの人は驚いたでしょう。
克明さん 実は朝、私の車がパンクして、後半は私はその修理に行っていてギャラリーとして帯同できませんでした。また妻は、優勝争いのプレッシャーに耐えられなくなってしまい、6番ホールが終わってクラブハウスに戻っていて、柑那は1人で戦っている状態でした。だから、親は二人とも8番のホールインワンは見ていません。
本人は、ホールインワンの確率など知らないでしょうし、価値がわからないでいたと思います。イーグルを取れたくらいの感覚だったのでしょう。後で映像を見ると、打った柑那自身は小さくガッツポーズをしているくらいでしたが、他のギャラリーの人たちが大騒ぎになっていました。
柑那さん パパは100回くらい、映像を見ていたね。
――ギネスブックに認定されたカテゴリーは、どういうものですか。
克明さん 「1ラウンドで2度のホールインワンをした最年少女子」というもので、括弧(かっこ)して「ジュニアコースにおける」と書いてあります。
トータルヤーデージによって分けてあるようです。大会は3732ヤードで行われていました。認定に必要な証拠物は大会本部とゴルフ場にご協力をいただいたり、テレビ番組の録画映像も残っていたりしましたので思ったよりスムーズに認定されました。
――これからの夢はありますか。
柑那さん プロゴルファーになることと、難しいシチュエーションでもうまくプレーできるようになりたい。プロの試合のコースって難しいでしょう。その中で優勝できるようになりたいです。
克明さん この前、BS番組でのインタビューで、柑那は「リコーカップに優勝したい」と話していました。リコーカップでは、最後、優勝者に出場選手が赤い花びらをかける「フラワーシャワー」のセレモニーがあるじゃないですか。あの放送を目をキラキラさせながら見ていたからでしょうね。(笑)
――難しいシチュエーションというのは、どういう状況ですか。
柑那さん 例えば、グリーンがグニャグニャでフェアウェーもグニャグニャなコースや、バンカーのアゴが高かったり、グチャグチャな状態だったりしても、うまくできる。ラフが洋芝でもフワッと打てるようなことです
克明さん そんなことを考えていたの? 少し驚きました。
――ありがとうございました。けがをしないように、これからも楽しくゴルフを続けてください。
取材/文・髙岡和弘(情報シェアリング部会・委員)