走る。クラブを2、3本握って、とにかく走る。中島早千香(さちか)さんのプレースタイルは、実に小気味いい。
早千香さんは、13歳、中学1年生のゴルファーだ。生まれた時から、左手前腕部の橈骨(とうこつ)と親指がない。右手より左手が短いため、左手でグリップエンド側を握り、右手はヘッド寄りを握るスプリットハンドで、クラブを振る。
毎ショット、目標方向にきちんとスタンスを取ってから、きれいに振り抜く。バンカーやアプローチ、パットでも、このルーティーンは変わらない。ガードバンカーでのショットを目の前で見たが、正確にクラブを入れて砂を爆発させ、一発でグリーンに乗せた。
ゴルフを始めたのは小学2年生の時。3歳上の兄がゴルフをしていて、練習に付いていったのがきっかけだった。打ち放題だったので、いきなり700球も打った。最初から球に当てることができ、「楽しかった」と振り返る。
4年生から、水戸市の自宅から近いゴルフスクールに入った。父親の佑樹さんは「手に障害のある娘でも受け入れてくれるだろうか。指導例も少ないだろうし」と心配したそうだが、中島孝之コーチは快く迎え入れてくれたという。
中島コーチの指導を受け、PGAジュニアリーグの試合にも出られるようになった。ジュニアリーグでは様々な選手との対戦や他県コーチからの温かい言葉もあり刺激になったという。正しくスタンスを取り、しっかり振り切るスイングは、中島コーチらの指導の賜物だろう。
両手の長さの違いに対応したスプリットハンドは、早千香さん自身が工夫したものだ。障害者プロゴルファーの第1人者、小山田雅人氏にスイングを見てもらう機会があったそうだが、「そのままで大丈夫」という言葉をもらったという。
プレーの速さは、佑樹さんの「他の人に、なるべく迷惑をかけないように」という教えを守っているからだ。ただ、中学でソフトテニス部に属し、小学4年生までスイミングスクールに通っていたように、本人自体にアスリート気質があり、体を動かすことが大好きなのだと思う。ラウンド中は、すごいスピードで自分の球の所に走っていくが、他のプレーヤーの邪魔にならないように、危険がないよう配慮して動く「緩急」も、しっかりと身に付けている。
取材したのは、千葉・新君津ベルグリーンカントリー倶楽部で開催された日本障害者オープンゴルフ選手権(日本障害者ゴルフ協会主催)の時だったが、初日のスコアは109。普段も110前後というが、スコアをいう時、少し悔しそうな顔をしたのも「アスリート」ならではだと思った。
スポーツには、手の障害があまりハンディにならないサッカーなどもあるが、なぜゴルフなのだろう。早千香さんの答えは明快だった。「ゴルフは、競技年齢が一番長い。いつまでもできるスポーツだから」。今は、週に2度、練習場に行って「ドライバーで、より遠くに飛ばす」ことに取り組み、鉄棒を握って握力をつける努力も重ねている。
最後に、将来の夢をきいた。「福祉関係の仕事をしながら、世界のいろいろな大会に出場して、ゴルフを楽しみたい」と早千香さん。いつか、パラリンピックにゴルフが正式競技として採用され、早千香さんらの夢がかなえられる時代が来ることを願う。
(取材/文・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)