高校、大学でゴルフの授業。マナーを学んで「将来、役立てたい」:法政高等学校・茨木高等学校

体育の授業にゴルフを導入している高校や大学があります。「マナーを重視するスポーツ」の理解と実践を通して、心身ともに健全な人間の育成を目標にしています。出席した生徒や学生からは「ゴルフの楽しさがわかった」、「将来、社会人になった時に役立てたい」などの意見があり、ゴルフ人口のすそ野拡大にも貢献しています。

ユニークなゴルフ授業
「社会に出ても自分自身を律して行動することの大切さを学ぶことができる
東京・法政大学高校

法政大学高等学校(東京都三鷹市)には、ユニークな必修選択授業があります。2年生と3年生は自分の興味や進路に合わせて自然科学や社会科学、語学からマスコミやビジネス、法学や簿記など専門的な分野に至るまで、文系と理系の両方の領域から多彩な授業を選択できます。その中にはゴルフを基礎から学ぶ授業もあり、毎回抽選になるほど人気だという。同校の植月文隆教諭に、授業の狙いや内容などを聞きました。

週4時間の必修選択授業。1クラス16人でケージ、グラウンドなどを使って履修

――法政大学高等学校には生徒が選択できる必修選択授業やゼミが50以上あります。かなり独特なカリキュラムですね。

植月文隆教諭 それまでの男子校から共学になった2007年に新カリキュラムが導入され、必修選択授業も選択できる授業を増やしました。各授業によっては少人数になることも多く、その分野に興味や関心が高い生徒が授業に集まります。

――保健体育の中には「総合ゼミ・野球理論」というユニークな授業もありますね。

植月教諭 はい、野球の作戦面を考察する生徒もいれば、自分の持つパワーを引き出す打ち方を研究する生徒もいて、さらに審判員に関する考察や野球と少子化の関係を調査する子もいます。

――とても面白そうなカリキュラムですね。ゴルフもやはり保健体育の授業となっていますが、どのように講義を進めているのでしょうか。

植月教諭 必修選択授業は2時間続きとなっていて、3年生が選択できるゴルフの場合は火曜日の5、6時間目と木曜日の5、6時間目にそれぞれ16人の生徒が履修します。1クラス16人というのは、それぞれの生徒を先生が見てあげられるギリギリのラインかなと思います。

――校舎に隣接してサッカーや陸上で使用できるグラウンドがあり、その隅にボールを打つことができる小さなゴルフレンジ、通称鳥カゴが8個所設置されていますね。

植月教諭 はい、その鳥カゴで2人1組となり、お互いのスイングなどをチェックしあいながら打っています。クラブは学校の方で用意しています。また、グラウンドは人工芝なので、サッカーなどで使用していない時は、そこでアプローチの練習などをする時もあります。グラウンドが使用できるときは、ドライバーの練習でもプラスチックのカラーボールを使って、ボールの曲がりなどをチェックできます。また、走り幅跳びに使われている砂場があるので、そこではバンカーショットの練習もできます。砂がフワフワなので、かなり難しいですけど(笑)

――授業は校内だけで行うのですか。

植月教諭 いえ、1学期の後半か、2学期の始めになったら、外部の打ちっぱなしの練習場を使わせていただくこともあります。1時間500円で打ち放題など、ジュニア向けの特別料金で練習させていただけるので、ありがたいです。

――授業を取るのは初心者ばかりですか。

植月教諭 家族と一緒にゴルフ練習場で打ったことがあるという生徒はいますが、基本的にはみんなゴルフは初体験です。ただ、本校では1、2年生の7月中旬と12月中旬に、各教員が1週間程度の特別講座を立ち上げます。例えば理科なら、イカを解剖する講座もあって、人気があるのですよ。その中にはゴルフ講座を設置することもあって、そこで初めてクラブを握って面白かったからと、3年生になって通年の授業を取る生徒もいます。

――女子ゴルフの人気が高まっていますが、授業にもその傾向は見られますか。

植月教諭 人気のある授業で毎回抽選となりますが、今は1クラス16人のうち半分が女子です。少し前は女子が2人だけということもあったので、確かに女子でゴルフをやりたい子が増えてきたという感じはします。

特別講座ではコースに出てラウンド。マナーやドレスコードなども学ぶ

――専門のコーチはいるのでしょうか。

植月教諭 いえ、私たち教諭が指導しています。そのため、担当教諭も練習して自己研磨していますよ。ただ、ゴルフを教えるのは難しいですね。必死に勉強しています。

――コースには出るのですか。

植月教諭 3年の3学期に、1、2年生の時と同様に特別講座が立ち上がる期間があるのですが、その中にゴルフ講座もあり、それまでの必修選択授業で履修してきた生徒たちに限定して、希望者でコースを回ります。ショートコースの東宝調布スポーツパークや、2023年10月限りで営業終了してしまいましたが、昭島市の昭和の森ゴルフコースです。ほとんどの生徒はコースデビューとなるので、芝生の上でプレーすることに感動します。随行する私たち教員はハラハラしていますけど、状況に応じたクラブ選択などをアドバイスしながら回ります。

――ルールやマナーなどは、どのように教えているのですか。

植月教諭 授業の最後にクイズ形式で出題し、覚えてもらうようにしています。ディボット跡には砂を入れることなども教えます。また、コースに出る時は服装などのドレスコードについても説明します。

――そのように1年を通して単位も取得できるゴルフの授業を持つ高校は非常に珍しいと思いますが、ゴルフが教育に果たす役割についてはどのように考えていますか。

植月教諭 ゴルフの特性は、自己責任のスポーツであることです。コースには審判員もいませんし、自分の責任で判断し、スコアを付けていきます。同様に社会に出たら審判員はいませんし、自己責任で行動することが求められるシーンに直面することは何度もあるでしょう。生徒たちにはそのようなことも話し、自分自身を律して行動することの大切などが学べると思っています。

「工夫を重ねていけば学校教育にゴルフを取り入れることも可能かもしれません」

――この授業を受けて、その後もゴルフを続ける生徒は多いのでしょうか。

植月教諭 そうですね、ゴルフを続ける生徒はいて、この前も大学4年生になった卒業生たちから誘われてコースを回ってきました。そのようなコミュニケーションや、教師と教え子という立場や世代を超えて一緒に楽しめるのもゴルフの魅力で、そういう流れがこの授業でも生まれていると思います。どのスポーツでも出来ることではないと思うので、できればこの流れを維持して、私たちも次の世代に引き継いでいきたいと思っています。また、この授業でゴルフを覚えたことをきっかけに、父親など家族と一緒にラウンドするようになったという卒業生もいます。やはり生涯スポーツですから、家族みんなで楽しめるのも魅力の一つですよね。

――学校教育の中にゴルフを取り入れるべきという声もありますが、実際に現場で指導されている身としては、どのように考えますか。

植月教諭 小学校や中学校で広がっているスナッグゴルフならともかく、実際のクラブを使った授業となると、環境次第ではないかと思います。生徒は鉄の棒を持つことになるわけですから、それを体育の授業で使用するとなれば、安全面に万全の配慮をしなければなりません。そのようなことを考えるとハードルは高いように思いますが、ケージを設置するスペースはそれほど取りませんし、授業を受ける人数を調整するなど工夫も重ねていけば、可能かもしれません。

取材/文・鈴木遍理(情報シェアリング部会委員)

基礎学び、名門コースでラウンド体験
大阪・茨木高校

大阪府立茨木高校(大阪府茨木市)では、元々、ゴルフを授業に取り入れていた経緯があり、2016年頃から、関西ゴルフ連盟(KGU)の協力を得てと選択制の「ゴルフ科目」を設けています。年間で20日間、30時間を目安とし、KGUが推奨する教本などでのゴルフのマナー講座や、校庭や体育館で穴あきボールなどを使ってのスイング練習、実際のゴルフ場でのラウンド体験などをしています。

2023年は3年生の前期授業で男女の生徒84人が選択し、体育教師が講師となり、座学や実践をしました。校庭で穴あきボールを使ってのプレー体験では、砂場を池に想定したり、人がいるところにボールが飛んだら、「ファー」と叫んで周囲へ注意を促したりするなど、ゴルフの奥深さも学びました。

名門クラブでプレーを体験

 夏休みに入った7月下旬には、茨木高校近くの茨木カンツリー倶楽部で、生徒がゴルフのプレーを体験しました。同倶楽部はこの日は休場でしたが、KGUや同倶楽部の協力で、希望した生徒35人が6組に分かれて、実際のゴルフボールを使用し、ベストボール方式でラウンドしました。

茨木カンツリー倶楽部は1923年(大正12年)の設立で、全国有数の名門ゴルフ場です。設立当初、日本オープン優勝6回の宮本留吉プロが所属するなど、多くのプロゴルファーを輩出しています。プロのトーナメントも開かれ、2023年10月には第88回日本オープンゴルフ選手権が開かれました。

ほとんどの生徒たちは授業で初めてゴルフクラブを握ったばかりでしたが、一般ゴルファー憧れの名門コースで、〝コースデビュー〟を果たしました。生徒たちは「素晴らしく綺麗なコースを回れて思い出になった」「機会があればゴルフを本格的に始めたい」などと話していました。授業を担当した教諭は「ゴルフのプレーの仕方やマナーなどを知っていれば将来、社会に出てお付き合いの幅が広がります。みんな、大変いい経験ができたと思います」と喜んでいました。

KGUによると、2016年は20校731人が選択し、以後毎年、30~40校が授業に取り入れています。2022年は大阪、兵庫、京都、滋賀の2府2県から1大学29高校がゴルフを学びながら、その楽しさを体験しました。

ゴルフ場でプレーする茨木高の生徒たち(関西ゴルフ連盟提供)

取材/文・橋本栄二(情報シェアリング部会委員)

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