関西ゴルフ振興の立ち上げ 関係者の意識改革やゴルフの魅力を発信:KGU元事務局長・田畑茂さんインタビュー

関西ゴルフ連盟(KGU)が、新規ゴルファーの開拓や地域振興の新たな取り組みに着手してから今年で15年目になります。趣向を凝らした新規ゴルファーの開拓や既存ゴルファーの活性化だけでなく、多くの賛同を集めたチャリティー大会での寄付総額が1億円を突破するなど社会貢献の取り組みでも注目を集めています。KGUゴルフ振興の立ち上げ段階から携わり、関係者の意識改革やゴルフの魅力を発信してきたKGU元事務局長の田畑茂さんに取り組みの経緯や将来像などを聞きました。

――KGUが積極的なゴルフ振興に取り組むきっかけを教えてください。

田畑さん 新な事を起こすのには、その組織のトップが強い意志を持つということかと思います。また、それらの具現化には、マーケティング思考を重視し、中長期の視点での組み立てと推進が肝要かと思います。

2009年にKGUの活動が、「アマチュア競技団体としての活動だけでいいのだろうか」という課題提起が、当時の森下理事長からなされたようです。ゴルフの競技人口もどんどん減りだしていた頃です。その衰退になんとか歯止めをかけたいという思いの基に、ゴルフ振興事業の取り組みが理事会で決議されました。
ゴルフ振興をスタートしようとしましたが、加盟クラブ、各府県のゴルフ協会の猛反対に遭遇し、暗礁に乗り上げ、中断してしまったようです。
その理由としては、「ゴルフ振興」の受け止め方は皆さん様々で、ゴルフ振興の活動とは一体どのような内容なのか全貌が良く解らず、そのようなことをするのに、振興協力金の徴収は出来ないとのことであったようです。
そこで翌年の2010年5月に、膠着状態を打破すべく、KGUにゴルフ振興準備室が設立され、そこへ呼ばれたのですが、準備室といっても、机一つと電話が用意され、私1人での開業でした。
週3日間の嘱託勤務でしたが、フル稼働でも時間が足りなかったように思います。

まずは、ゴルフ市場の将来展望はどうなるかのリサーチ活動から始め、ゴルフ振興とは誰のために何をするのか?それをしたらどうなるの?などの問答を繰り返しながら、多くの方々との意見交換や、議論を繰り返し、KGUとして取り組む、ゴルフ振興のビジョン策定、具現化のための基本的な施策の策定、規約の策定、振興事業を進める業務運用コンピューターシステム開発、推進のための職員の採用を順次進めて参りました。
並行して、連盟の理事、支配人会の幹部の方々に参加して頂き立ち上げた、ゴルフ振興委員会は、大橋常務理事が委員長を務め大きな推進役を果たしました。

ただ、一方では、KGUはアマチュア競技団体だから、「ゴルフ界の盛衰を考える必要はない」、「余分なことはするな」との、持論を譲らない方々もおられましたが、足掛け2年間の議論を進めるうちに、ゴルフ界の課題認識も高まり、「何とかしなければゴルフが衰退してしまう」と憂慮する声の広がりとともに、ゴルフ振興事業を進める必然性の理解が深まり、ゴルフ振興のスタートを切ることが出来ました。

――振興施策はどのような基本スタンスから始めたのですか。

田畑さん 既存の概念を捨てて、様々な方の意見を幅広く素直にお聞きし、取り組むことかと思います。ゴルフの未来市場を見据えて、これまでのタブーを破ることに重きを置きました。
ゴルフ業界の関係者はどうありたいと思っているのか、ゴルフ業界のマーケティングはどうあるべきかという視点でいろいろな情報を集め、調べを進めると、過去の既成概念とは離れた施策に取り組む必要性が見えて来たのです。
ゴルフ業界は歴史と伝統を重んずるという傾向が強く、新たなことをなかなか始めようとはしない風潮があるように思います。そんな中、リーマンショックが一つのきっかけとなり、ゴルフ人口が急激に減少に向かったと認識しております。

成り行き任せで、IT化に乗り遅れた企業の多くは衰退の傾向にあり、取り戻しに懸命の努力がなされております。ゴルフ界でも市場の成り行き任せでは、凋落の道を歩みだすのでは、との危機感を感じました。
既に2015年問題、2020年問題と云われていましたが、本質的には同じで、時期がずれているだけ、いよいよ、団塊の世代が全て後期高齢者になる2030年辺りに本格的な衰退の分岐点を迎えるかと思われます。従って、時間的余裕が余りなくなって参りました。

バブル崩壊後、ゴルフ場数の4割強が経営破綻をしました、その後、ゴルフ人口は余り増えておりません、売上高も大きく増えておらず、ゴルフ界の実態は基本的には厳しい状況にあるかと思われます。
コロナ禍で屋外スポーツが人気になり、ゴルフブームの再来というメディアの記事もありましたが、現実一過性のものであり、ゴルフ人口を増やすハードルは高く、決して甘くはないように思います。

――従来のゴルフ界はどんな考えだったのですか。

田畑さん あくまでも私見でございますが、日本経済の高度成長に引きずられて、ゴルフは繁栄し、1990年から数年間の高度成長期にビジネスツールの一環として成長しました。
今、2200以上ある日本のゴルフ場は、その頃に多く誕生しております。
各地区のゴルフ団体もゴルフ場も意図的な普及活動をしなくても、ゴルファーが増え、ゴルフ界は成長しました。ありがたい、結構な時代であったといえます。

その当時に得た成功体験から、ゴルフの活性化は、強いプロゴルファーの台頭や、国体競技や、オリンピック競技になるなど、各種競技を活性化させれば、コンペ誘致が出来たら、繁栄するとの思い込みがなかなか抜けきらず、全国のゴルフ連盟や協会、関連団体は、競技ゴルファー人口を増やすための施策を熱心に取り組んでこられたと思いますが、果たして、期待通りのゴルフ人口は増えたのでしょうか?

2年前の東京オリンピックでゴルフが正式競技で開催され、2019年に全英女子オープンで渋野日向子プロが優勝し、2021年には松山英樹プロがマスターズを制しました。しかし、これらの影響を受けてゴルフ人口が増えたか、という検証は誰もしていません。増えるだろうと思っていただけなのです。

世界NO1を誇る日本の競争力や、1人当たりGDPは、今や30位以下へ、1億総中流意識社会も過去の遺物となり、ゴルフ界を取り巻く環境は大きく変化しました。他力本願でなく、自力で、ゴルフを国民的生涯スポーツに育て、ゴルフ人口を増やす事に取り掛からねばゴルフ人口は自然発生的には増えない時代に変わったのです。

――振興施策を成功させるために考えるべきことは何でしょうか。

田畑さん 最も考えなければならないのは営業力です。かつての営業力は、あるものを自ら市場を作って売り込んでいましたが、最近は違います。お客様が好むものを作って課題を解決してあげるというスタイルに変わってきたのです。あるものをそのまま売るのではなく、趣向を凝らしてお客様の好みに合わせた商品を提供する時代に変わり、久しくなります。

いかにマーケティング思考で施策に取り組めるかどうかということです。新たなゴルフ振興はこういう発想から生まれてくるべきなのです。すなわち、従来の思い込みを捨てて、新たな井戸を掘って新しい畑を開拓する必要があります、それが今、KGUが取り組んでいる振興施策です。中長期的な視点と展望を持って、全体最適の施策を導入し、新しい新規ゴルファーの創造に加えて、既存のゴルファーがいつまでもゴルフスポーツを楽しんで頂くような機会を提供しょうとするものです。

ゴルフ振興を進める活性化の催事で、連盟は競技団体だから、ダブルぺリア競技などはとんでもない的な発想では、95%の一般ゴルファーの活性化は出来ないかと思います。

――KGUが取り組んでいる振興施策を具体的に教えてください。

田畑さん  「始めようゴルフ」・・・新規ゴルファー創りが、ゴルフ界の最重要課題です。ゴルフ練習場とも、連携や協働をしながら、18歳以上の社会人を対象にした初心者スクールや、スクールの卒業生を対象に独自のルールでラウンドするミッションゴルフ大会の開催などがあり、希望する高校や大学とタイアップして、体育選択授業にゴルフ科目も導入しました。2012年に始めた初心者スクールはこれまでの参加者が10万人を突破しています。

「もっとゴルフ、いつまでもゴルフ」・・・一般ゴルファーの活性化としては、チャリテイフェスタ、友人や家族で気軽に楽しめるフレンドカップを2014年から開催し、2015年以降は毎年1万人以上が参加し、総数で20万人になろうとしています。いずれもゴルフを生涯スポーツとして楽しんでもらえる機会を積極的に提供し、ゴルフの活性化に繋げる活動を提供しております。競技ゴルファーもちらほら参加し、ダブルペリアなどの競技方法で楽しんでおられるようです。

――施策の一環として、どのような社会貢献に取り組まれていますか。

田畑さん 2010年5月からゴルフ振興事業とは何か、何が目的か、なぜ必要なのか、誰のためなのか、反対論がなくなるまで相当の時間を割いて議論を重ねました。

ゴルフ場の来場者が減ったからゴルフ振興を始めるのか?来場者が増えたら止めるのか?もっと崇高な目的が必要ではないのか?ゴルフを活性化するには、ゴルフが社会からもっとリスペクトされるようなスポーツに育てなければならない、最終的な目標や目的は社会貢献に繋がるものでなければならないとの方向にたどり着きました。

「ゴルフを国民的生涯スポーツとして育成し、心豊かな健康社会作りに貢献する」ということです。ゴルフ界の繁栄により、健全経営を通して社会的責任果たすことにも繋がるとの答えを導き出したのです。

既存ゴルファーの活性化施策であるチャリティゴルフフェスタは、2012年から始まり、難病に苦しむ人々を救うiPS細胞研究活動への支援として、京都大学iPS細胞研究所や、あしなが育英会に催事の参加者から、チャリテイー金をいただき、寄付をしています。寄付額は2012年の415万円からスタートして年々、賛同者も増え、2021年には2万人以上の方がフェスタに参加し、1900万円が寄せられました。その他、コロナ禍での医療従事者の支援に、関西エリアのゴルファーの寄付総額は1億円を超えています。

また、関西では南海トラフ地震の備えが重要となっており、地域行政との危機発生時の支援協力にも取り組んでいます。2013年に関西広域連合や奈良県とも話し合い、支援協力の締結を結びました。

ゴルフ場には、風呂も備わり、食事を提供する設備や、非常時は仮眠も可能な場所もあり、駐車場も完備しています。1995年の阪神大震災で、ゴルフ場は近隣の自治体と協力して避難所を開設したり、お風呂を貸したりした実績があるので、KGU加盟クラブの皆さんは、「支援協定は当然だ」ということになりました。

――これまでの取り組みを振り返っての感想をお聞かせください。

田畑さん ゴルフ振興事業を、一つの「山」と例えるなら、今後のゴルフ界の繁栄には、この山を乗り越えなければならない必要性を示されたのが、2009年当時の関西ゴルフ連盟の森下理事長であったと思います。
当時のご判断は実に適切であり、新たな井戸を掘る指示を発信されたと思います。その想いを請けて、私達は、ゴルフ界の未来市場を真剣に考え、どのようにして発展に繋げて行くかについて、試行錯誤を繰り返しました。

具体的な手法としては、連盟の理事や支配人、練習場、パブリックゴルフ場などのスタッフの皆さんと、様々な課題を一緒になって、議論をしながら、スクラムを組んで進めてきたものであります。
私の役割は、山登りのための下準備役であり、用具係でありました。従って個人的には、「自分がやった」とか、「ゴルフ振興を軌道に乗せた」的なものはありません。

新たなゴルファーや既存のゴルファー、振興事業の参画ゴルフ場、練習場の皆さんから高評価を得つつあるのは、KGUの理事や支配人会のリーダー、KGUのゴルフ振興を進めるスタッフの熱心な取り組みにより、その成果が見えて来たからだと思っております。
KGUのゴルフ振興事業はまだまだ道半ばで、緒に就いたばかりです。ゴルフ振興の掲げる事業理念、「社会貢献を果たす」という、大きな山を越えるのは、永遠のテーマかと思います。
成果を急がず、プロセスを大事にしながら中長期の視点で、全体最適の施策を不退転の決意での継続した、取り組みが今後とも必要かと思います。

ゴルフ振興を持続させるためには、活動を支えるための財政的な仕組み、生産性を高める業務運営システムの構築も不可欠だと思います。
ゴルフ振興に伴う、 活動費用の負担は、本来は業界がするものであり、ゴルファーに求める筋合いではありませんが、この素晴らしいゴルフスポーツを後世に残すために、ゴルフは他のスポーツのように公的な施設がありませんので、現在のゴルファーの皆さんに、ゴルフ場での1プレー30円のゴルフ振興協力金を仰いでいるものですが、発足以来、一人として拒否される方もなく、協力を頂いていることは、本当に有難いことと感謝しております。

――事業を引き継がれたKGUの関係者にメッセージをお願いします。

田畑さん 津賀理事長のもとに、スタッフの皆さんはKGUの掲げる理念を堅持し、各々の立場で委員会や部会とも協調しながら、熱心に実務を推進されているので、改まって何も申し上げることはありませんが、KGUの活動は、加盟クラブの会費、競技参加料、多くのゴルファーからの振興協力金、トーナメントは協賛企業の支援があってこそ成り立っております。
今後とも、関係各位の支援や協力が得られるように、現場の実態や流れを直視しながら、ゴルフ界の繁栄に寄与すべく、精進努力を継続されることを願っております。

【田畑茂】1944年生まれ、松下電器産業に入社後、設備営業本部長、松下設備システム社長、松下流通研修所社長を歴任。定年後、鳴尾ゴルフ倶楽部支配人、2010年から2021年まで関西ゴルフ連盟で勤務。

 

構成・橋本栄二(情報シェアリング部会委員)

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