『People』第2回「ゴルフ」への恩返しでコロナ対策ガイドラインを監修

炭山嘉伸・東邦大学理事長インタビュー

理事長、医学者として自然科学系の総合大学、東邦大学を長年けん引されている炭山嘉伸理事長。何度もけが、病気を患いながら、80歳の今もゴルフを楽しみ、今年、ホールインワンとエージシュートを同時に記録する快挙を達成された。名医にして名ゴルファーの炭山理事長に、ゴルフの効能と、長い間、腕前を維持する秘訣をお聞きした。(聞き手・山中博史・日本ゴルフ協会専務理事)

――炭山理事長には、新型コロナウィルスが発生、まん延した2020年、「国内プロゴルフトーナメントにおける新型コロナウィルス感染症対策ガイドライン」の策定、監修にご尽力いただきました。お蔭様で、コロナ下でも、無事にトーナメントを行うことができ、ゴルフ界全体が感謝しています。最初に、先生とゴルフの関わりについて、お聞きしたいと思います。初めてクラブを握ったきっかけをお教えください。

炭山理事長  様々なスポーツをやってきましたが、東邦大学医学部に入学後は、1年から6年まで硬式テニスに打ち込みました。卒業後も、テニスをずっと続けるつもりでした。32歳の時、出張先の病院で先輩の医師に誘われ、ゴルフ場にいきなり連れていかれ、先輩のハーフセットを借りてのプレーでしたが、僕の方がいいスコアでした。それがゴルフを始めたきっかけです。

初めてクラブを握ったのに、普通に打てて、ちゃんと飛ぶのです。野球や卓球など様々な球技をやってきた中で、反射神経的なものが自分は優れていると思っていました。ただ、ゴルフは、静を動にしなくてはいけないスポーツです。止まっている球を動かして、方向性を保って、しかも距離を稼ぐ必要があります。そのため、ゴルフは反射神経や運動神経ではなく、(技術、経験など)別の要素でやるものと、それまでは思っていました。だから、年を取ってから始めればいいと考えていました。しかし、やってみたら、面白い。一気にはまりました。

その後、(東邦大学付属)大橋病院の病院コンペがあって、53、53の106で回りました。生涯、僕が100をたたいたのは、この1回きりです。最初、OBをたたいてスタスタ前に歩いていったら、同じ組の人から「OBだから、もう一度、打ち直さないと」と教えられたほど、ルールなどには無知でした。

時間を効率的に使い分け、仕事、勉強とゴルフを両立

――理事長は、最初、明治大学に入られ、それから医学部に入り直したとうかがっています。医師となった後、アメリカ留学中、そして帰国後、大変な激務続きではなかったかと想像しています。仕事が忙しく、しかもテニスを続けられ、ゴルフもやるとなると、時間が足りないように思えます。ゴルフをする時間を作るための工夫と、上達のためにどのような努力をされたのかお教えください。

炭山理事長  あらゆることがそうだと思っていますが、時間というのは限られたものであり、いかに有効に利用するかが大切です。例えば、学生は、帰宅組とクラブ活動組に分かれます。比較すると、むしろ帰宅組の方がノンビリしていて、試験勉強もゆったりと行っています。クラブ活動組は、僕もそうですけど、ほとんどの時間をクラブのために使う。勉強の時間は最短で集中的にやります。これは今でもそうです。自分の時間をどうやって使うか。いつも効率性を考えています。ゴルフをしている時はゴルフ、テニスをしている時はテニス、勉強をするなら勉強と、きちんと棲み分けをするように習慣づけてきました。だから、両立ができたのだと思います。

医者になってからは、研究も医療もやらなくてはいけない。その中でスポーツの練習をするのは難しいことですが、時間を効率よく使い分けるコツは人よりも優れていると思います。

――アメリカに行かれていたのは何歳からですか。

炭山理事長  38歳からです。ハワイ大学では、ワイアラエカントリークラブ(米男子ツアー、ソニーオープン開催会場)に週末、ハワイの知人が良く連れて行ってくれました。スタンフォード大学に行った時には、キャンパス内にゴルフ場があって、トム・ワトソン(メジャー大会8勝の名プロゴルファー)と一緒に回った時の写真が残っています。スタンフォード時代のある時、手術着のまま抜け出し、広島大学からきていた友人とプレーしていたら、前の組に別の教室の教授が回っていました。「日本から来た留学生はとんでもないやつだ」と翌日、大目玉を食らいました。

――留学時代も、時間を有効に使っていたということですね。

炭山理事長  だから、手術着でやっていたわけです(笑)。次に行ったメイヨー・クリニックは寒い所(ミネソタ州)にありますから、ゴルフはしませんでした。それで帰国して、よけいゴルフ熱が高まりました。

けが、病気を克服し、エージシュートとホールインワンを同時達成

――理事長は、何回か大きなけがや病気をされています。どのようにしてゴルフに復帰されたのかをお教えください。

炭山理事長  61歳の時に交通事故に遭い、右大腿骨の骨頭骨折をやりました。そこには、チタンの人工骨頭が今も入っています。クラブはもう握れないかもしれないという危機でした。でも、術後2日目にはリハビリを始め、5か月後、コースに復帰することができました。事故に遭う前は、ロングヒッターで、スコアも良かった。茨城ゴルフ倶楽部西コースのバックティーから、67のベストスコアを記録したほどです。今でも210~220ヤードは飛びますが。当時から比べると、飛ばなくなりました。ゴルフスイングは、テークバックで右側に体重を乗せ、それから左の腰に体重を乗せてフィニッシュを取ります。でも、右に体重を乗せると痛いので、テークバックの稼働範囲が狭くなります。しかも、プレーを続けていると、さらに痛くなります。どうしてもテークバックが浅くなって、飛ばないし、方向性も悪くなります。それを自己流で克服していきました。

不整脈にも苦しみ、ゴルフ場で5、6回、倒れました。不整脈というのは、心筋がけいれんを起こしている状態です。脈拍が200から220くらいまで上がり、血圧は最終的には測れなくなるほど下がって、脳の虚血状態が起きます。倒れるたびに仲間のゴルファーに助けられ、大学病院に運ばれて、蘇生処置を受けました。不整脈が治らないので、カテーテル手術を受けるため入院し、その時、MRIとCTの検査を受けたら、大動脈に瘤があるのがわかりました。入院中にたまたま、睡眠時無呼吸症候群であることも判明しました。一晩に120回以上、無呼吸があって、最長で63秒か64秒、呼吸が止まっていました。この状態では、脳や心臓にすごく負担がかかってしまいます。今は、無呼吸を防ぐ装置を、自宅にも旅行先にも置いて寝ています。その装置を使うようになったら、不思議と不整脈が治ったのです。

もう一つは、脊柱管狭窄症です。2、3年、苦しみました。我が家はフローリングの床だったのですが、痛みからくる汗で、ペタペタ足跡が付くほどでした。本当は1日6錠か8錠までの使用制限がある強い鎮痛薬を、あまりの痛さのため12錠くらい飲んでいました。これは、自力で克服しました。脊椎管狭窄症は、つまり腰痛です。腰痛を直すためには、自分の腹筋、背筋を鍛えて、体に鎧を作ればいいと考えました。ジム通いを始め、体操やストレッチをやっているうちに腰痛は治りました。今でも毎日、ジムに行っています。必ず10ほどの器具を使ってゴルフに必要な筋肉を鍛えますが、そうした負荷をかける運動より、むしろストレッチをメインにしています。知人でもあるプロゴルフコーチの内藤雄士さんは、年齢とともに飛距離が落ちるのは、筋力の低下以上に柔軟性がなくなることによるものだと話されています。ですから、ストレッチを多く取り入れ、柔軟性を保つことは、スコアのキープにも役立っていると思っています。ゴルフの練習の時も、スイング練習より、ストレッチに時間をかけます。練習後もストレッチをし、ジムでまたストレッチをする。スコアがまとまっているのは、そのお蔭だと思います。

――80歳代になっても腕前を維持、向上させている秘訣はありますか。エージシュートとホールインワンを同時に達成したと聞いていますが。

炭山理事長  エージシュートは、70歳くらいから可能性がありました。 あと1打、ここをパーで上がれば、というような機会は何度もありました。 ですけど、周りがはやしたてるのです。そうすると緊張し、アドレナリンが過剰に出てグリーンを狙った球がオーバーしたりして、なかなか達成できませんでした。73歳の時、茨城ゴルフ倶楽部西コースで、最後に4、5メートルのパットが残ったところで、同伴プレーヤーが「2パットで上がったらエージシュートですよ」と言ってきましたが、決めることができました。これが1回目です。その後も70くらいで何度か回りましたが、一気に18回まで数字が伸びたのは、けがや病気が全部、治ったここ2、3年の話です。18回目のエージシュートとホールインワンを同時に達成したのは今年1月29日で、ものすごく寒い日でした。場所は、やはり茨城ゴルフ倶楽部西コースで、前半はダブルボギーをあって40。エージシュートなど、まったく考えていませんでした。後半も連続ボギーのスタートでした。ところが、13番パー3でホールインワン。直後にダブルボギーを打ちましたが、バーディーもあって、38で回ることが出来ました。13番は、156ヤードの表示でしたが、打ち上げと寒さなどを加味すると、170ヤード近くありました。このホールは難しくて、左側の花道から行こうとしても傾斜で左に落ちてしまいます。ワンオンをするには手前のバンカー越えを狙うしかありません。6番のユーティリティーから、友人のアドバイスで6番アイアンで打ったら会心のショットが出ました。ホールインワンを達成したのは3度目です。

エージシュートとホールインワンの同時達成について、仲良くさせてもらっている戸張捷さんからも、世界でも聞いたことのないくらい珍しい快挙だと言ってくれました。

ゴルフの特性を踏まえ、新型コロナまん延を防ぐ

――コロナ下で、屋外スポーツであるゴルフの良さが見直され、若者や女性がゴルフを始め、ゴルフ場、ゴルフ練習場とも活況を呈しています。これは理事長が監修された「ガイドライン」に従って大会運営をしたプロ、アマの競技で、いわゆるクラスターが発生しなかったことも、「ゴルフは安全」という認識に大きく寄与したと思っています。理事長は、どのような事に留意、注意をされて「ガイドライン」の監修にあたられたのでしょうか。

炭山理事長  ゴルフは、野球やサッカーなどと違い、 個人プレーです。しかもプロ選手で見ると、野球、サッカーは年間契約ですから、けが、病気で休んでも、すぐには収入減に直結しません。一方、プロゴルファーは、試合に出なければ金が稼げません。ですから、「ガイドライン」の必要性、重要性は、他のスポーツ以上にあるわけです。絶対にクラスターを発生させてはいけない。そのため、より厳しく、対策を立てなければいけませんでした。先日、トーナメントのテレビ中継で、解説者が 「ゴルフ界は大変、感染対策が厳しいですから」と話していました。その通りだと思います。

ゴルフが大好きですから、ゴルフ界のためになるならと思い、本学に訪ねてこられた日本女子プロゴルフ協会の小林浩美会長とお会いし、日本ゴルフ協会の山中博史専務理事は明治大学の後輩でもあり、コロナ対策会議の顧問やガイドラインの監修は喜んで引き受けました。当初は、直近2週間の体調管理に気を付けさせました。体温測定はもちろん。試合の3日前には必ずPCR検査か抗原検査を受けさせました。選手の何人かはコロナに感染しましたが、広がることはありませんでした。濃厚接触者の定義も独自のものを作り、まん延させないことに努めました。ゴルフ界は、忠実に守ってくれました。

――新型コロナは、完全な収束には至っていませんが、マスク着用の有無を個人の判断に任せるなど、対策のハードルは段階的に下がってきました。ただ、今後も同様、あるいは今回以上に危険性がある感染症が発生しないとは限りません。選手はじめ多くの関係者、観客が集まるゴルフのトーナメントで、日常的に気を付けることがあればお教えください。

炭山理事長  問題は、やはり飲食です。酒が入って、当然マスクを外して、結構近接して喋り合います。声も大きくなります。選手がプロアマや前夜祭に出ることはOKですが、ゲストと飲食を共にすることは避けた方がいいと思います。

自然を慈しみ、謙虚に。ゴルフに通じる学びの精神

――ゴルフは人間性を豊かにするスポーツと言われています。ゴルフが人間形成にどう役立つのか、理事長の経験、お考えを教えてください。また、ゴルフの魅力、特色についてお感じになっていることがあればお話ください。

炭山理事長  ゴルフの一番の魅力というのは、自然との戦いだということです。ゴルフ場は、一日たりとも同じ条件ではありません。ドーム球場での野球を含めた屋内競技とは違い、ゴルフは、刻一刻と風や温度、湿度の状況が変わります。自然を相手のスポーツですね。ですから、極めてナチュラルな世界で楽しめるスポーツだと思います。自然の中で、ルールを守り、フェアプレー精神で競う紳士のスポーツです。これがゴルフの最大の魅力だと思います。

自然の話をしましたが、生命は、自然の中から生まれました。ですから、我々はその自然を慈しみ、そこから誕生した生命を大切にしなければいけません。そして、先ほどお話ししたようにスポーツマンシップを持ち、謙虚な生命、人間でなきゃいけない。そういう人間を育成するのが、本学の学びの精神でもあるのです。

建学90周年の時に大森キャンパス、100周年の時に習志野キャンパスに、コミュニケーションマークをちりばめたモニュメントを作りました。マークには人間はもちろん生き物や風など自然界の様々なもの、星、そしてハートマークがあります。お互いが慈しみ合い、助け合い、補い合って生きていく、 という意味がこのコミュニケーションマークに込められています。

――東邦大学の学びの精神、そしてコミュニケーションマークと、自然の中でプレーをするゴルフには通じるものがあるように感じました。今、80歳でバリバリの現役ゴルファーですが、いつまでも続けられるのもゴルフの特徴ですね。

炭山理事長  本当に長く付き合えるスポーツです。いずれは今のような70台のスコアは出せなくなるかもしれませんが、その時点の自分なりに一生懸命にプレーすればいい、と考えています。できる限り、続けていきたい。ゴルフと出会って本当に良かったと思っています。

 

すみやま・よしのぶ
香川県小豆島生まれ。1970年、東邦大学医学部卒業。81~83年アメリカ留学。2003年東邦大学大橋病院長。09年~現在東邦大学理事長。日本外科感染症学会名誉理事長。日本臨床外科学会、日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会各名誉会長。公益財団法人日本感染症医薬品協会前理事長。一般社団法人日本私立医科大学協会副会長。

 

構成・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)

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