アマチュアとして、学生として、プロとして 親子2代で見つめた女子ゴルフの歴史:JGA服部道子理事インタビュー

馬場咲希選手の全米女子アマ制覇 自分自身が優勝した当時を思い出すきっかけに

――2022年はJGAナショナルチームに所属する17歳の馬場咲希選手が全米女子アマチュア選手権を優勝し、女性とゴルフが一層クローズアップされた年でした。同選手権を1985年に制した服部道子理事にとっても感慨深い1年だったのではないでしょうか。

服部理事 全米女子アマのカップを日本でまた見ることができて、本当に感慨深いものがありました。同時に、私が優勝した当時のことを思い出すきっかけともなり、アマチュアとして、学生として、プロとして女子ゴルフを経験してきた身として、これまでのことが走馬灯のように頭を巡りました。

――服部理事はお母さんの紘子さん(旧姓松波)も1962年の日本女子アマチュア選手権を優勝し、親子2世代で日本の女子ゴルフの歴史の中心にいました。

服部理事 母は第1回世界女子アマチュアゴルフチーム代表として海外にも遠征していますが、女性ゴルファーがまだまだ少ない時代だったので居心地は悪かったでしょうね。私の時代でもゴルフは男性の、あるいはビジネスマンのスポーツという感じでしたから。

――服部理事は1984年に当時史上最年少の15歳9カ月で日本女子アマを制して脚光を浴び、翌年に全米女子アマを勝ちました。それでも女性がゴルフをやっていることに対する違和感はあったのですか。

服部理事 やはり、ありました。先ほど言ったように日本では男性のスポーツという印象がまだ強く、私は小学校4年生からゴルフを始めたのですが、同世代と一緒にバスケットボールや陸上に打ち込んでいたこともあり、ゴルフは正直言ってあまり好きではありませんでした。ただ、中学1年の時に中部ジュニアで優勝し、日本ジュニアに駒を進め、全日本に行くと、それまでほとんどいなかった同世代の女子の仲間が増えていき、そういった方たちと話すのも楽しかった。そこで頑張れば世界に行くこともできて、階段を上っていくことが楽しくなっていきました。

宮里藍さんは見る側とプレーする側の垣根を取り払った

――今の黄金世代(1998年度生まれ)の女子ゴルファーなどに話を聞くと、宮里藍さんのプレーを見たのをきっかけにゴルフを始めたという選手が圧倒的に多い印象です。服部理事は憧れの選手はいたのですか。

服部理事 私にとっては小学校4年生の時に東海クラシックに招待選手で来日して出場したナンシー・ロペスさんがそうでした。プレーの一つ一つが真剣でかっこよく、それでいてギャラリーの方たちにも優しく接し、それまでゴルフに寡黙なイメージを抱いていた私には衝撃でした。宮里さんも同じで、見る側とプレーする側の垣根を取り払い、ゴルフをやらない人も引き込んでいく魅力があります。それは人間的な部分であったり、笑顔で楽しそうにプレーしながら強さを発揮する部分だったりで、やはり旋風的な存在でした。それでいて自分の意見などもメディアの前で言うことができて、そういう意味ではスポーツ選手、ゴルファーという像を新しいものにしてくれた気がします。その姿を見て、ゴルフをやらない家庭でも子供にやらせたいと思うようになり、裾野を広げてくれました。

――ただ、そのような環境になっても、日本における女性ゴルファーの割合はまだまだ少ない。

服部理事 そうですね。人口の半分は女性なのに、ゴルフではそうなっていません。年代によっては子育てなどで忙しく、ゴルフのように時間がかかるスポーツはやりにくかったりすることも背景にはあるのでしょう。でも、ゴルフを通じて新しい人と繋がるなどすれば視野はもっと広がり、健康寿命を延ばしたりQOL(クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)を高めたりできるのだから、女性の方にはもっとゴルフをやってもらいたいと思います。女性が元気じゃないと、日本も元気になりません。そのために女性目線からの女性のニーズをもっと聞き、9ホールでのプレーやスループレーを一層取り入れるなど、気軽にやれるスポーツにしていくことは考えなければいけないでしょう。

また、最近は街中にシミュレーションゴルフを使ってレッスンを受けたり、練習できる施設も増え、コースに行かなくても気軽にゴルフができるようにもなっています。これもファーストステップとして活用していきたいですよね。

取材中、笑顔が絶えない服部理事

ゴルフに絶対はない ビギナーズルールがあってもいい

――ゴルフを始めてみたもののスコアが伸びず、嫌になってしまう女性も多いと聞きます。

服部理事 ゴルフはスコア、数字でもあるので、そのようなモチベーションも大切です。レディースティーが男性と同じような位置にあると、モチベーションが低くなってしまう女性もいるでしょうね。ピンの位置にしても、池越えに加えて難しい位置に切ってあることが時々あります。打ち上げのバンカー越えにしても、バンカーに入れてたくさんたたいて、もう嫌になってしまう人もいます。上手な人は四畳半の範囲を狙うような難しい位置でもいいかもしれませんが、ヨーイドンで始めたばかりの人は池越えが気にならないような簡単なところにピンを別に切るようなゴルフ場があってもいいのではないでしょうか。バンカーにしても初心者は焦ってしまうから、外に出して打っていいとか。何もしゃべらずに走ってばかりだとゴルフ場から遠のいてしまう人もいるのですから、ビギナーズルールがあってもいいと思います。絶対というのはないのです。

――服部理事は高校を卒業後に米テキサス大オースティン校に留学するなど、海外経験も豊富です。ゴルフと女性という面から、海外との違いを感じることはありますか。

トータルで女性のことを考えて支える環境を

服部理事 米国では例えば子育て世代の女性は、ブランチや夕食のためにクラブハウスのレストランに行くことがあります。友人などと食事をしている間は子供をゴルフ場で遊ばせたりしているので、自分がゴルフをプレーできなくてもゴルフ場と関りがあるのです。また、米女子ツアーのLPGAでは試合会場のクラブハウス内などに託児所が設置され、選手が子供を預けて試合に出場できるようになっています。美容院もあって、トータルで女性のことを考えて支えています。日本でもそのような環境を作り上げていくことが、これから女性とゴルフを強く結びつけるためにも必要だと思います。

――最後に、服部理事がゴルフを続けてきて良かったと思うことを挙げてください

服部 ゴルフは私をいろいろな場所に連れて行ってくれましたし、またいろいろな人と出会わせてくれました。ゴルフがあったからこそ自分自身を深く見つめることもできたのだと思います。私は全米女子アマを優勝したり、プロになって賞金女王になったりもしたけれど、それでも同じことをやっていればいいという訳ではありませんでした。いろいろな変化に対して自分も変化をしなければならなかったし、ポジティブに楽しみながらそれらを一つ一つ、パズルのようにはめていくのも楽しかったです。ゴルフから学んだものは本当に多く、私のかけがえのない財産です。この素晴らしいスポーツを、ぜひ多くの女性に経験していただきたいと思います。

 

構成・鈴木遍理(情報シェアリング部会委員)

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