《シリーズ対談》第5回 ゴルフと健康増進

鳥羽 研二 東京都健康長寿医療センター理事長
宮川 潤一 ソフトバンク株式会社代表取締役社長

鳥羽研二・東京都健康長寿医療センター理事長  この連載は、ゴルフがいかに健康維持、増進に役立つかを伝えるため、毎回、医学界をはじめ様々な分野、企業の方を招いて、話をお伺いしています。今回は、ソフトバンクの宮川潤一社長にご登場いただきます。誰もが知るIT系巨大企業のトップとしてご活躍されていますが、激務の中、ゴルフがいかに健康維持や仕事をするうえで役に立っているか、またゴルフをすることの楽しさ、喜びを教えていただきたいと思います。

ソフトバンクというと、自分が(スマホキャリアの)ユーザーであることとプロ野球球団を経営されていることは知っていますが、全体像となると、よくわかっていません。ごく簡単に説明していただけますか。

宮川潤一・ソフトバンク株式会社代表取締役社長  メインは通信会社です。携帯電話やスマートフォンから始まって、あとは固定通信や国際電話など通信全般を扱っています。そのほか、Yahooという検索エンジンやLINEというSNSサービス、さらにPayPayという決済サービスなど、国民の皆さんに使っていただくサービスを提供しています。売り上げは、全体でいうと約6兆円で、従業員数は、グループ全体で5万人ほどです。

鳥羽理事長  今、ご説明いただいた以外にも多様な事業を展開されていると思いますが、幅広い分野を抱える組織のトップとして、どのようなペース配分で仕事をされているのでしょうか。

宮川社長  月曜から金曜日までは、30分単位くらいに次々とスケジュールが組まれています。頭の切り替えをするのが大変です。

鳥羽理事長  もともとは、技術畑でおられたのですよね。

宮川社長  実家は禅寺で、そこの長男でした。寺を継ぎたくなくて、26歳の時に起業しました。10年間、会社を経営してまあまあのサイズになり、上場申請をしました。そうしたら、孫(正義・ソフトバンクグループ会長兼社長)のアンテナに引っ掛かって、私の会社は買収されました。

鳥羽理事長  少し意志が弱かったら、寺で経をあげている可能性もゼロではなかったのですね。(笑)

宮川社長  今でも、檀家たちから「帰ってこい」と言われています。(笑)それでソフトバンクに入って、ちょうど20年。孫の下で、丁稚奉公をもう一度、やり直しました。社長になって3年目です。

鳥羽理事長  情報通信というのは、情報という「知」の複合体を、人の「知」と結びつけるものだと思います。世の中には様々な情報があふれていて、例えば昔の百科事典もネットの中に入っていたりしますが、そうした情報と人間の「知」の結びつきを、ネクストステージではどのように展開されていかれるお考えですか。

宮川社長  いい事をきいていただきました。今、ChatGTPという生成AIが台頭しています。インターネット上にある情報は、知識の塊です。Yahooのような検索エンジンは、知りたい情報を知識の塊の中から自分で取りに行くという仕組みです。世界でいうとGoogleがナンバーワンで、日本だとGoogleとYahooが主に提供しています。

一方、生成AIの将来の形は、知識ではなく知恵になると思います。自分自身で進化していく。既になりかけていて、来年には実現するかもしれません。あと足りないのは、計算基盤だけだと思います。いわゆるコンピューターの集合体のものが、今のレベルだと少し足りません。数珠つなぎにしていったら、完全に知恵に変わります。ソフトウエア的には完成していますので、もうそこまで実現する日が来ていると思います。

鳥羽理事長  我々の分野でも、すごくショッキングな論文が出ています。アメリカでAIとお医者さんを比べたものです。いわゆる問診で、患者さんに尋ねる言葉の数、時間、量だけではなく、どちらがより患者さんに寄り添っているかという点で、AIにはるかに負けていました。特に、精神科の先生など、問診を行う事が多い医者はショックを受けています。人はどのような形で、知恵を持った生成AIに対して、より優位性を持てるのか。私は危機感を持っています。人間は大丈夫でしょうか。

宮川社長  正直言って、わかりません。例えばアインシュタインやエジソンとかダビンチといった歴史の中で天才と言われた人でも、かなわない存在が出来上がるわけです。我々は未知の領域に入るわけです。怖がる人がいるのも理解しています。ですから、一定のルールは絶対に必要だと思います。例えば、電気の線を抜いたら完全に死んでしまうルールを作るとかですね。

鳥羽理事長  一方で、スイッチを入れておけば、例えば宮川社長と同じ顔、形、表情の宮川A、Bとか存在していたら、(人間は)楽ですよね。

宮川社長  フェイクニュースは今、完全にそういう状態です。例えば、この会話を5分も学習させたら、表情や口元を動かしてしゃべり出します。フェイクという意味では、恐怖感はあると思います。

人より10倍も20倍も賢い頭脳があって、その頭脳が自分で進化し、ロボットを動かし、生産、販売までやってくれる。そうしたら人間は何をするのですか、というところが怖いと思うのですよね。大事なことは、我々人間の価値が残り続けることだと思います。

鳥羽理事長  宮川社長は、お寺さんの家に生まれていますが、文化とか宗教とか、そのあたりも危ういことになりますか。

宮川社長  実家の寺の本山は、京都の妙心寺です。一度、妙心寺の管長と、対談をしたことがあります。管長から「(IT時代にあって)我々はどうしたらいいのか」ときかれたので、「宗教とか禅の世界にデジタルを持ち込むのではなく、最後までアナログでいていただきたい」と話しました。我々の宗教(禅宗)は、日本に入ってから800年、続いています。もう将来はないと思うのではなく、あと800年は続くはずだと考えたほうがいいと思います。例えば「メタバースのようなデジタル空間の中でお寺を作りたいけど、どう思うか」といった相談をよく受けますが、私は絶対にやるべきではないと思います。起きている間はずっとデジタルに触れている人もいます。その人たちと禅で生きている人とはまったく違う。この時代だからデジタルを取り入れないと、と考えるでしょうが、100パーセント何もかもとは思いません。

例えば、ゴルフもそうですよね。完全にデジタル化されて、テレビゲームみたいになったら、誰もやらなくなります。

ゴルフでの出会いは、ビジネスの素晴らしい機会

鳥羽理事長  ゴルフのことについて、お聞きします。ゴルフを始めたきっかけを教えていただけますか。

宮川社長  50歳から始めました。今、58歳になったところです。孫から、「そろそろゴルフを始めたらどうか」と言われたのが、きっかけです。「仕事の枠を広げるのに、お前にはゴルフが足りない」と孫は言うのです。最初は毎週、ゴルフに連れていかれました。

鳥羽理事長  仕事がらみのゴルフも多いと思います。一日、ゴルフで一緒にラウンドすることは、コミュニケーションを取るうえでプラスになるのでしょうか。

宮川社長  今の僕の仕事は、ゴルフの時にプレゼンテーションをし、商談を決めることです。(笑)最近の売り上げアップは、僕のゴルフで決まっています。週末の土曜日、日曜日は、よほどのことがない限り、全部、営業が取引先とのゴルフで予定を埋めて、僕の時間を奪っています。来年の秋くらいまでは、週末の予定は埋まっています。

その中で、ゴルフ場での朝ご飯の時から、夜、一杯飲んで解散するまでの長い時間、ずっとお客さんと話し続けています。ですから、10年来、20年来の友人のようになってしまいます。それで、こういう提案があるのですが、いかがでしょうかとプレゼンテーションをします。そうすると皆さん、本気で聞いていただけます。ゴルフでの出会いというのは、ビジネスの素晴らしい機会だと思います。

鳥羽理事長  確かに、ただ酒を飲むより、ゴルフをすることで脳が活性化され、思考が生き生きとしてきます。商談にはいいのかもしれません。宮川社長は、今日のラウンドで馬場咲希選手のようなロングドライブを披露しましたが、得意なクラブはドライバーでしょうか。

宮川社長  本当はパターが好きです。パットの時の集中する感じがいいですね。ショットの方は、あっちへ行ったりこっちへ行ったりします。

鳥羽理事長  いろいろなコースを回っておられるようですが、国内で印象的なコースはございますか。

宮川社長  海の横のゴルフ場が好きです。例えば、高知県のKochi黒潮カントリークラブのように、景色がスカーッと広がっているのがいいですね。あと、幅が広いところがいいです。右へ左へと行きますから。(笑)

鳥羽理事長  海外でもプレーはされますか。

宮川社長  7年ほど前まで2年半、アメリカのカンザスシティーで働いていました。車で30分ほどのところに、ゴルフ場が100はありました。ちょうどゴルフを始めた時にアメリカに赴任しましたので、土日どころか休みの日は全部、いや平日も普通にゴルフをしていましたね。現地は、プレー費が20ドルほどです。陽が長くて、夜10時くらいまで明るい。夏は、仕事が終わって、夕方4時半とか5時に集合して、みんなでゴルフ場に行きました。

鳥羽理事長  アメリカとヨーロッパでは、多少、ゴルフというものが違っていますよね。イギリス流の紳士のスポーツではなくて、アメリカにはラフな部分があります。

宮川社長  Tシャツ、短パンOKとかね。カリフォルニアではよくやりました。ペブルビーチなども回っていますが、トランプが持っているコースや、ペリカンヒルゴルフクラブといってオレンジカウンティにあるコースもすごくきれいです。コロナになって、あまり行けなくなってしまいました。

鳥羽理事長  ヨーロッパでもプレーをされていますか。

宮川社長  イギリスでも仕事がありましたので、ゴルフをしました。イギリスのゴルフはあまり好きではありませんでした。何か暗いイメージがあります。やはり日本のゴルフ場がいいのではないでしょうか。

鳥羽理事長  ゴルフ以外に、体に気を付けられていることはありますか。

宮川社長  僕が、なぜゴルフにこれだけこだわっているかというと、実はほかに何もやっていないからです。スマホを持って歩いていますから、1日の歩数が記録されています。平均2000歩なのです。

鳥羽理事長  それは少ないですね。

宮川社長  朝、起きて、身支度でちょこちょこ動きますが、次は玄関から2、3歩の所に来ている迎えの車に乗ります。そのまま会社に連れていかれます。エレベーターで自分のオフィスに行ったら、周りに会議室がいくつかあって、私はそこのドアからドアへと行ったり来たりしているだけです。

ですから、医者からは「もう少しちゃんと歩きなさい」と言われてしまいました。そこで、最初、ゴルフはカートに乗っていましたが、今では土日のラウンドはずっと歩くようにしています。約15000歩から17000歩くらいになります。

鳥羽理事長  健康のために留意されていることは、ほかにありますか。

宮川社長  ゴルフを始める前は、スキューバダイビングをやっていました。インストラクターのライセンスを取得したほど熱中しました。将来は、早めにリタイアしてダイビングショップをやりたいと思っていたほどです。ただ、ゴルフを始めてみたら、ゴルフの方が楽しく、ダイビングはいっさいやらなくなりました。

左から。近藤情報シェアリング部会長、宮川社長、鳥羽先生、全国老人保健施設協会 東会長

ゴルフはその人を知るためのいい運動

鳥羽理事長  ゴルフの良さ、楽しさを教えていただきますか。

宮川社長  ゴルフは性格がよく出ると言われますが、本当にその通りだと思います。特に、僕は、ラウンドするお客さんが毎回、違います。初めての方ばかりと土日、いつもラウンドします。この人はいい人だから、とことん付き合いたいとか、一緒にラウンドすることでわかります。ゴルフはその人を知るためのいい運動だと思います。

それから、やはり健康にいい事を一番に感じます。これだけ土日に歩くのですから、月曜日は体力的には疲れているはずです。でも、頭の方は月曜日の方がスッキリしています。

また、お上手な方から僕のような下手な者まで、いろいろな技量の方がいますけれども、下手でも、これはこれで可愛くて楽しいと見てくれる人が多い。一方、我々も、本当にお上手な方を見て感動したりします。ゴルフは、本当に単なる球技ではないと感じています。

鳥羽理事長  確かに、カートに乗ってばかりいないで、今日のようにアップダウンのある所を歩くと、いいですよね。どのスポーツも、やれば体幹が強くなります。私も、1日の歩数は4000、5000歩程度です。でも、ゴルフをすれば20000歩くらい歩くので、頑丈になります。

宮川社長  多分、ゴルフをしていなかったとしたら、半分、ノイローゼになっていたかもしれません。これほど仕事をやっていたら。土日にゴルフすることで、平日は2000歩でも、平均で1日5000から6000歩になっていると思います。

鳥羽理事長  90歳になっても筋肉は増やすことができます。1日4000歩しかあるいていない人でも、1000歩増やすと筋力や歩くスピードが速くなることが研究でわかっています。ですから、日々の歩数の少ない人は、アベレージの歩数を増やす努力が大切なのです。

宮川社長  1000歩増やすだけで違ってきますか。

鳥羽理事長  そうです。300、400メートルの所を往復してくれば、1000歩に到達します。また、快適な睡眠のためには、一番いいのは夕食後の散歩です。散歩してお風呂に入って出ると体温が下がります。そこでメラトニンというホルモン物質が出て、睡眠薬などはいりません。治安がよく、足元が危なくなければ、夕食後の散歩をお勧めします。

ソフトバンクのトップの方がいかに激務で、それを土日の歩きのゴルフがいかに支えているかが、よくわかりました。さらに、1日あと1000歩、増やして、これからも会社を、日本を引っ張っていってください。本日はありがとうございました。

 

撮影協力:程ヶ谷カントリー倶楽部 HP

取材/文・髙岡和弘(情報シェアリング部会委員)

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