栃木県の広大な土地に45ホールが広がるゴルフ場として、多くの人に愛される鹿沼カントリー倶楽部。その接客サービスから従業員が心地よく働ける環境作りまで、米谷彰子総支配人は旗を振り続けている。1964年に開場した老舗ゴルフ場の伝統を守りつつ新たな挑戦を続ける米谷総支配人が目指すゴルフ場の姿を、じっくりと語ってもらった。(聞き手・構成=鈴木遍理・情報シェアリング部会委員)
『風の大地』の舞台となったゴルフ場 坂田信弘プロの死去に「悲しい気持ち」
ーー鹿沼カントリー倶楽部といえば、名作漫画『風の大地』の主人公・沖田圭介が研修生として腕を磨いたゴルフ場であることが思い起こされます。そのモデルで漫画の原作者であるプロゴルファーの坂田信弘さんが、今年7月22日に76歳で他界されました。
米谷総支配人 2022年には作画を担当された、かざま鋭二先生も亡くなられて、時代の移り変わりを思うと悲しい気持ちになります。ここでは入口などに『風の大地』をモチーフにしたオブジェを飾らせていただき、レストランでも実際に漫画に登場した食事をメニューに加えてお客様に喜んでいただくなど、本当にお世話になって感謝の気持ちでいっぱいです。
ーー坂田プロはジュニアを育てるために無料のゴルフスクール「坂田塾」も立ち上げ、プロテスト合格者だけでも100人を超えるなど、ゴルフ界に大きく貢献された方でした。坂田プロとの思い出は。
最後にお話しさせていただいたのは、昨年の夏にお電話した時でした。世間がコロナ禍に覆われてからゴルフ場には来られなくなってしまい、この土地でとれる好物の梨や米を送らせていただいたのです。その時は「元気にやっているよ」と話されていたのですが…。コロナ禍以前は雑誌の取材やファンクラブのイベントで何度も来られていて、研修生として生活していた寮も、形だけですが、まだ残っています。
支配人就任からコロナ禍、酷暑対策・・ メンバーの協力に「ありがたかった」
ーー米谷総支配人はそのようなコロナ禍が広がり始めた2020年2月に支配人となりました。いろいろと、大変だったのではないかと察します。
本当にコロナとともにといいますか、それが終わったら、今度は猛暑対策ですからね。コロナ対策は鹿沼グループの指針に従ってパーテーションを立てたりしましたが、その年のゴールデンウィークなどはお客様が全然来なくて、コースにタヌキが出てくるほどでした。ただ、お客様が自主的に体温を測るなどしてくれて、対策に必要なものを作っている会社の方も協力してくれるなど、本当に助かりました。ありがたかったです。
ーー米谷総支配人は、それまでは鹿沼カントリー倶楽部の営業推進・会員サービス担当マネージャーでした。支配人の内示を受けた時は、どのような気持ちでしたか。
すぐにイェスとは言えませんでした。私はシングルマザーで、家が東京にあり、こちらでは営業として、ゴルフを一人でやっている方を集めてコンペを開いたり、会員権が欲しいという方がいればご紹介させていただいたりという、推進事業の仕事をしていました。次は東京の事務所に勤務することになるだろうと思っていたらゴルフ場の支配人ですから、驚きました。
ーー鹿沼グループが掲げる「また来たいと思ってもらえる次のゴルフ場を創り出す」の理念にふさわしい支配人像だったのではと勝手に推測してしまいますが、実際にその理念に向けて心掛けていることなどはありますか。
まず、来ていただく方が、あまり堅苦しくなくて、心地良かったと言ってもらえるゴルフ場を目指しています。そのためにメンバーだけではなくゲストの方の名前も覚えるようにし、朝礼でもお客さんや従業員同士が名前で呼び合えるようにしようと話しています。メンバーの数は4,000人くらいなので、大変なことではありますが、名前で呼ばれて嫌な思いをする方はいません。私も時間があればティーイングエリアまで行き、お客様に話しかけて「行ってらっしゃいませ」と、見送らせていただくこともあります。
多種多彩なイベント、コンペ “お1人様” やファミリーも大切に
ーーゴルフ場が主催するイベントやコンペも多種多彩にあふれています。
はい、例えば私が営業を担当していた時から毎月続けている「嘉曜会」というコンペは、年配の方でいつも一緒にラウンドしていた仲間が病気などでゴルフができなくなり、1人になってしまったという方などを対象に企画したものです。今はいろいろな方が参加してくれるようになり、多い時で80~100人のコンペとなりました。同じようにお1人様から参加できる「ふれあいコンペ」というのもあり、いずれもドリンクパーティー形式の表彰式も行います。これらの会をきっかけに、新たなゴルフ仲間が生まれたりもしています。
ーーその他にも、ファミリーで参加できるイベントも企画しています。
来場者全員に記念品を配り、ゲームなどにも参加できる「七夕イベント」や「ハロウィンイベント」もあります。ハロウィンイベントは写真撮影用のブースも用意して、仮装したまま来場されたご夫婦が記念撮影をし、その後に着替えてラウンドして楽しめるようにしています。
ーー鹿沼カントリー倶楽部は、クラブハウス内に焼肉屋さんもあります。
すごく人気があって、日曜日などは入口に行列ができることもあります。また、家族でバイキング形式の料理をレストランで楽しんでもらう時もあって、これらは地元の人にもっと認知してもらって、ゴルフをしないお客様でも気軽に利用できるようにしていきたいと思っています。鹿沼グループは、ここ以外に鹿沼72カントリークラブ、栃木ヶ丘ゴルフ倶楽部があり、鹿沼72さんもクラブハウスの2階にあるピザ釜を使って小学生を対象にしたピザ教室を鹿沼市と連携して開催しています。うちも今年は開場60周年なので、日頃の感謝を込めた企画をやっています。
人を相手にする仕事 自分が決めた目標に向けて粘り強く
ーー米谷総支配人は精力的に切り盛りされていますが、これまで女性であるがゆえに苦労されたことはありますか。
営業担当の時は、練習場などを回って予約を取るために努力もしました。でも、頭ごなしに「どうせ女性はすぐやめちゃうから」などと言われて相手にしてくれなかったり、嫌なこともありました。でも何度も通ううちにコンペを予約してくれたりするようになり、今の時代にマッチするかは分かりませんが、人を相手にする仕事なので自分が決めた目標に向けて粘り強く続けていくことも大切だと思います。私には2人の子供をちゃんと育て上げようと言う気持ちもあったし、協力してくれた親には感謝しています。ただ、子供たちは就職する時に営業の仕事は候補から真っ先に外していましたね。私がいつも早朝4時に起きて仕事に行くのを見ていたからでしょう。寂しい思いをさせてしまったのだなと思います。
ーーそのような女性たちがもっと生き生きとした人生を送るために、ゴルフもその一助になるのではと思いますが、米谷総支配人は女性とゴルフについて、どのようにお考えですか。
女性がゴルフを始めるきっかけは、職場の仲間や友達からゴルフをやってみないかと誘われる例が最も多いと思います。もちろんウエアがかわいいとか、オシャレなところも続ける動機としては多いです。ウエアも練習時間も、自分で選んで決めることができるのがいいですね。でも結婚や出産、さらに仲間がいなくなったりという環境の変化でゴルフをやめてしまう人が多いのも実情です。私たちとしては、そのように環境が変化してもゴルフを続けてもらうために、できる限りの声掛けがやはり必要だと考えています。「ここは初めてですか」とか、様子がおかしければ「大丈夫ですか」と健康状態を確認したりとか、結局はそのようなコミュニケーションの積み重ねだと思います。デジタル化が進むとそのようなことが薄れていくので、特にその辺はテコ入れしていきたいです。
関東女子グランドシニア連覇の角田里子さんを理事に
ーー鹿沼カントリー倶楽部は競技ゴルフでも女性が活躍しています。かつて女子ミッドアマを代表する選手で、60歳を過ぎた今も関東女子グランドシニアを連覇するなど活躍している角田里子さんも、その1人ですね。
角田さんには理事になっていただき、女性のゴルフ振興を進めています。クラブハウスに彼女が優勝した時の写真を額に入れて飾っているのも、その一環です。昨年の女性の来場者は全体の12%でしたが、今後はもっと多くの女性に来ていただき、女性がより活躍できるゴルフ場にしていきたいと思います。そのために女性用ロッカールームをもっと広くするなど、改修も考えています。
ーー60年前に開場したゴルフ場ですから、そのような施設の改修も必要なわけですね。
従業員の方などが頑張って築いてきた60周年の歴史の重みをつなぎながら、メンバーさんに入会して良かったと思ってもらい、さらに施設の老朽化をどうするか考えながら、女性やスタッフを巻き込んでいくかも大きな課題としてある。今後に向けて、やることは多いです。
鹿沼カントリー倶楽部
〒322ー0532
栃木県鹿沼市藤江町1545ー2
構成・鈴木遍理(情報シェアリング部会委員)