福岡ゴルフアカデミー~For Ladies

九州の福岡では、ゴルフ人口底辺拡大のための小さな取り組みが進行中だ。そのプロジェクト名は「福岡ゴルフアカデミー~For Ladies」。福岡県南部地区の24倶楽部が加盟するゴルフ場支配人会と、九州ゴルフ連盟(GUK)のゴルフ活性化委員会の共催による新規女性ゴルファーの創造・育成を目的としている。2021年10月に同県糸島市の志摩シーサイドカンツリークラブで始まり、今年10月で4回目を迎えた。1回の受講者数は20人。支配人たちが先生となり、まるで初めて学校に通う小学1年生のような、1度もコースに出たことのない女性たちの「福岡ゴルフアカデミー」の校門をくぐって授業を見学した。

会場は女性に人気の志摩シーサイドCC

こんな授業風景である。

教壇に立つプロゴルファーでもある山根蓉矢支配人(福岡センチュリーGC)が1人の生徒に質問する。「白杭は何のことですか?」

女性「???」

山根支配人「OBのことですね」

女性「その言葉が出てこなくて」

ほとんどゴルフの「ゴ」の字も知らないのである。この日は入門から3日目ではあったが、白杭=OBがとっさに思い浮かばないのも無理はない。1950年代生まれの我々が最近流行の曲を何度か聞いて「その曲名を」と尋ねられても、すぐには口にはできないのと似ているのだろう。

講習は3日間に分けて開かれる。生徒たちが参加しやすい曜日を考え、連続する土曜日を利用。今回だと10月21、28、11月4日に行われた。第1回は2021年10月に始まり、22年1回、23年が2回開催。季節はゴルフシーズンの初夏と秋に実施する。その理由は参加する女性たちが、緑が映える初夏と、秋のさわやかな空気の中でのプレーで、よりゴルフに興味を持ってもらうためである。逆に暑い夏と寒い冬に実施したら、集まった生徒も逃げ行く。レッスンコースは女性ゴルファーに人気がある志摩シーサイドCC(福岡県糸島市)。玄界灘を一望できるシーサイドコースで南国ムードが漂い、福岡市内から車で1時間という近さに立地する。

3日間の授業内容

授業内容は若干折々によって異なるが、以下のようである。受講時間は午後0時30から同4時すぎまで。

◎ゴルフ座学&ルール・マナー

・ルール講習からスタート。「審判のいないゴルフでは自身が審判になるスポーツ」を教わる。生徒たち全員はミニルールブックを渡され、分かりやすい説明を受ける。

・チェックインからチェックアウトまで1日の流れを映像を交えて学習。ゴルフを楽しむために大切な、最低限守って欲しいマナーやエチケット、周りのプレーヤーに対する気配りなどもレクチャーされる。

・座学では14世紀頃にイギリスのスコットランドで始まったとされるゴルフの起源やクラブの進化。さらに、ゴルフ用語の解説から芝の種類に至るまで、ゴルフにまつわる様々な知識を伝授される。

◎ショット・パター練習

・4人1組5チームに分かれてレッスン。練習グリーンでは基本的な構え方や打ち方、傾斜に対する読み方に加え、マーカーの正しい使い方などを教わる。

・初めてクラブを握った初心者クラスはコース内の打撃練習場を使ってグリップの握り方やスタンス・アドレスなどスイングの基本動作を学ぶ。

・コースでのプレー経験はないが、練習場経験のある生徒はクラブの振り方に加えて方向性を取るコツなど、悩みに寄り添うワンステップ上の指導も受ける。

◎コースレッスン・ラウンド

・ラウンドレッスンではティーイングエリアからセカンドショット、パッティンググリーン周りのアプローチまで、1ホールの流れを実戦形式で体感する。

・スムーズなラウンドに欠かせないルール&マナー、カート道路や池に入った時の処置、グリーンについたディボットの修復方法などを実演を交えて教えてもらう。

・会場の志摩シーサイドCCは1番ミドル、2番ショート、3番ロングの構成で、この3ホールを回ってラウンドレッスンを締めくくる。最後はクラブハウスに戻って反省会を行って終了となる。

※今回はパッティングのレッスン後にカップ切りの実演も行われた。

参加には4つの条件

先生は福岡県南部地区の24ゴルフ場の支配人たち。中にはプロゴルファーもおり、かつて研修生としてプロを目指した支配人も4分の1程度含まれる。土曜日と言えば、ゴルフ場が最も忙しい日ではあるが、支配人たちは交代で「福岡ゴルフアカデミー」の先生として生徒に指導にあたる。

先生たちの次は生徒たちの参加条件。彼女たちには「しばり」がある。次の4つをクリアしなければアカデミーのメンバーには入れない。

  • 18歳以上の女性
  • 福岡県に住んでいる方
  • ゴルフ場でのプレー経験のない方(練習場での練習は問題なし)
  • アカデミーが実施する3日間を全て受講できる方

第1期生募集の際、初めての試みということで支配人たちは気を揉み「5人しか来なくてもやろう」と話し合っていたが、蓋を開けると予定通りの20人が集まった。第2期生は募集をかけて30分で定員に到達。溢れた応募者が出たために、その女性たちは優先的に第3期生の一員に登録。第4期生は諸事情で募集期間が2週間と短く、17人しか集まらなかった。そのうち3人はラウンド経験があり、2人は家庭の事情などで結局12人の生徒たちで授業は実施された。第3期生までで約60人が受講したが、1割程度はゴルフから離れたという。逆に言うと、50人以上が持続しているわけだ。職業や年齢は様々で、親子もいれば、子育てが終わったお母さんも顔を揃える。

1年8カ月で60ラウンドの元生徒も

今年6月に1、2期生によるアカデミーコンペ開催。

その継続中の第1、2期生の卒業生16人が集まり、今年6月24日(土)に「合同アカデミーコンペ」が志摩シーサイドCCの9ホールを使用して開かれた。ベストスコアは53、ワーストは87。出場16人にアカデミーに参加後からコンペ開催前までのラウンド数のアンケートを実施したところ、最多は1期生の濱野和江さん。1年8カ月で60ラウンドをこなしている。2番目が2期生の山崎芳栄子さんの50回(1年1カ月)、3番目が2期生の野上千陽さんの30回(同)。大したのめり込みようである。共催のGUKがアカデミーに年間50万円を協賛し、その一部がコンペの商品などに使われた。

この3人プラス2期生の松田紀子さんは、アカデミースタッフの一員と言ってもいい。昨年の3期生、今年の4期生の受付業務をはじめ、生徒たちが練習場で打った後のボール拾いも手伝う。そのご褒美が無料のハーフラウンド。この4人は年齢が50歳前後で近いせいもあり、たまたま教えてもらった先生が山根支配人という関係でアカデミー後も付き合いが続く。山根支配人は生徒たちのフォローを丁寧にしており、時にはみんなを集めて無料でのレッスン会も実施。ゴルフ談義を中心とした賑やかな食事会も催されたこともある。このフォローが彼女たちの持続にも一役買っている。

ゴルフに熱中する4人にアカデミーの感想を聞いてみた。

ゴルフのトリコになった1期生の濱野さんはアカデミー卒業後、1年間の特典(後述)が終了すると、すぐに自宅近くの筑紫野CC(福岡県筑紫野市)の会員権を購入。「(会員権は)ゴルフをする主人がOKを出してくれました。山根さんのおかげで新しい友達もできたし、楽しいゴルフができています」

野上さんは子育てが終わり、ゴルフ経験者のご主人が新聞でアカデミーの募集を見つけて夫人に勧めた。「今の世の中はそうではなくなっているのに、ゴルフは男性のものと思っていました。気軽にできないし、きっかけがないとね。今はハードルが下がりました」

松田さんも子育てが終了し、山崎さんたちと比較的リーズナブルなゴルフ場を探してラウンド。「最初、アカデミーで同レベルの人たちとできて良かった。上手な人とはレベルも違うし、この年(49歳)では1人ではできません。こういう(福岡ゴルフアカデミー)流れが全国に広がるといいですね」

山崎さん「アカデミーに参加したから仲間作りもできたし、こういうのが多くなれば、ゴルフ人口も増えていくと思います」

もう1人。4期生12人を代表して福岡市役所勤務の高江真央さん(23歳)に3日間を振り返ってもらった。高江さんは週2回のレッスンを受け、ゴルフをする父親からクラブ購入の際のアドバイスも受けたという。最終日のラウンドレッスンではミドルホールでバーディー逃しのパー、ショートホールでは1オンに成功した。「とにかく楽しかった。時間を贅沢に使ってもらって、みっちり教えてもらいました。ボールがクラブヘッドの芯に当たった時の打球感がたまりません。もっとうまくなりたいし、いろんなゴルフ場を回ってみたいと思います」

受講者が大喜びする多くの特典

3日間の講義が完了すると、受講者が大喜びする特典がプレゼントされる。「福岡ゴルフアカデミー」のロゴ入りピンクのオリジナルタオル、好みの色のボール1ダース、化粧品のサンプルやゴルフ用品の割引券、ノベルティグッズ、そして受講証明のメンバーズカード。このカードがあれば、受講後1年間、福岡南部地区の24倶楽部で平日はメンバーフィープラス1000円、土日祭日は同3000円でプレー可能。練習場でも優待価格でボールを打つことができる。さらに、この地区で開催されるプロのトーナメント、男子の「Sansan KBCオーガスタ」(芥屋GC)、女子の「RKB×三井松島レディス」(福岡CC和白コース)を無料で観戦OK。こういった決定は24のゴルフ場の足並みが揃わなければ実現不可能である。

アカデミーは「ゴルフへの入り口」  将来は200人の大コンペ構想も

授業の締めくくりは、アカデミーの仕掛け人でもあり、中心的な役割を担うGUKのゴルフ活性化委員会メンバーの志摩シーサイドCC・宮川周三支配人。「セルフプレーの場合のクラブ確認のクセ、素振りは周りを見て、グリーン上は走らない、ラインは踏まない、スパイクは引きずらない、ゴルフ場には上着を着て、肩タオル、腰タオルはしない。いくら叩いてもいいからスロープレーはゴルフ場が一番困る」と受講者に優しく語りかけた。

その宮川支配人はアカデミーの役割をこう考える。「ここで上手にしようとは思わない。だからプロのレッスンは必要ない。技術うんぬんじゃない。ゴルフがどんなスポーツであるかを知ってもらうのが大事。かじってもらうんです。ゴルフへの入り口です」

 

第5期は来年10月を予定。そして、第10期生が終了しての約200人が集う「福岡ゴルフアカデミー大コンペ」構想も持ち上がっている。

 

取材/文・森本博樹(情報シェアリング部会委員)

 

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