千葉県立市原高等学校の園芸科には、ゴルフ場のコース管理や樹木剪定などを学ぶ「緑地管理コース」がある。市原市には32クラブ33カ所のゴルフコースがあり、その数は全国一。2019年5月に同市と市原高は包括連携協定を結び、ゴルフ場などに送り出す地域人材を育成し、地域社会の活性化に一層、寄与することになった。実際の授業はどのように行われているのか、全国でも珍しいゴルフ場人材の育成をリポートする。
講義は「芝生の長さと競技の特性」 芝生を実際にカットする実習も
市原市牛久の国道297号線、別名・大多喜街道沿いにある市原高校は、小湊鉄道の上総牛久駅から徒歩約10分。緑地管理コースの授業は、校舎からマイクロバスで約5分の鶴舞グリーンキャンパスで行われる。同キャンパスには広大な農園とビニールハウスが建ち並び、同コースの実習に使われる芝生は、その一角に敷き詰められている。筆者が訪れた時は、教室で「芝生の長さと競技の特性」を講義している真っ最中だった。
「テニスや野球の芝生の長さはおよそ5ミリ。ゴルフのティーグラウンドは8ミリで、サッカーは10ミリ、ラグビーやアメフトは38ミリ、競馬場は50ミリもある。競技によって長さがなぜ違うのかを、まず考えてみよう」
永嶋達也教諭の問い掛けに、生徒たちからは「ボールを弾ませたり転がしたりするスポーツは芝が短い」「フィジカルコンタクトが多いスポーツは怪我を防ぐため芝が長い」と声が挙がる。同教諭はさらに「短い芝生の方が管理は大変だ。刈る頻度も多いから芝はダメージを受けるし、暑さに弱い洋芝もある。特にゴルフ場のグリーンは芝が3ミリほどで、プレーヤーも一年中来る。お客さんに『今日は芝がデコボコで』なんて言えないだろう?だから凄く難しい」と、丁寧に教えていた。
講義を終えると、教室の外に出て実践。8人の生徒たちがグループに分かれ、それぞれがエンジンの芝刈り機で指定された長さに芝をカット。その後に芝を踏みしめ、長さによって感触が違うことを確かめる。
2019年に学校統合、市原市と地域共創に向けた包括連携協定
「最初のころは、ここに芝生はなく、草がボーボーでした」と永嶋教諭。市原高校に「野菜コース」「草花コース」「緑地管理コース」によって構成される園芸科が新設されたのは、県立鶴舞桜が丘高校と統合した2019年。鶴舞桜が丘高は05年に鶴舞商業高校と市原園芸高校が併合して創設され、農場はもともと園芸高が使っていた。ただ、当時は芝生を管理するカリキュラムもない。それが、市原高による統合で一変した。
統合を機に、同高はゴルフによる地域活性化を目指す市原市と地域共創に向けた包括連携協定を結び、ゴルフ場に即戦力の地域人材を送り出すことを視野に入れながら、芝生の養生を本格的に始めた。現在は高麗芝が中心だが、今後はバミューダ芝も増やし、ベント芝も加えていく予定だという。
人材育成は、芝生の管理だけではない。園芸科に入学した生徒たちが各コースに分かれるのは2年生からだが、1年時の9月にはゴルフ場での仕事全般を実際に見て経験するゴルフ体験学習も行う。クラス別に姉ヶ崎カントリー倶楽部、鶴舞カントリー倶楽部、南総カントリークラブ、ロッテ皆吉台カントリー倶楽部、PGM南市原ゴルフクラブ、太平洋クラブ市原コース、千葉よみうりカントリークラブなどで、フロント業務やレストラン、キャディー、コース管理の仕事を実際に見て、説明してもらうなどする。ゴルフ場に足を踏み入れるのが初めてという生徒も多く、その美しさに感動して緑地管理コースを選択したり、3年生になってフロント業務やキャディーの就職に応募する生徒もいる。
体験学習ではゴルフ場での練習やラウンドも
ゴルフ場での体験学習は、緑地管理コースに進むと一層、本格的になる。2年生は芝生管理を実際にどのように行っているかをゴルフ場で学び、バンカーのならし方なども体験。さらに練習場や練習グリーンで実際にボールを打ち、1ホールをラウンドさせてもらうこともある。
このような体験学習は、グリーンキーパーやキャディーの人手不足に悩むゴルフ場にとっても願ったりかなったりだ。たとえゴルフ場に就職しなくても、ゴルフに親しむことで将来的にプレーヤーとなることもあるだろう。そのため、どのゴルフ場も生徒たちを快く受け入れ、熱心に説明をしてくれるという。
「緑地管理コースでは週2日の授業で2年生の時に樹木の刈込や剪定、基本的な道具の使い方も学び、機械の操作などもできるようにします。3年生になると芝生の管理がメーンになる」と永嶋教諭。3年生の伊藤晃太さんは「機械をいじることが好きで緑地管理コースを選びました。自分は野球部ですが、これまで芝生の特性や長さなどを気にしたことはなく、この授業は受けていて面白いです」と話す。将来についてはまだ決めていないというが、ゴルフ場への就職も視野に入れてくれれば、市原市としても嬉しいことだろう。
「ゴルフ部の部員も増やしたい」大岩校長
今後の市原高の課題について、大岩良徳校長は「ゴルフ部の部員をもっと増やしたい」と言う。現在の部員は4人だが、ゴルフ場の管理などを学びながらゴルフの練習もできることが認知されていけば、市原市以外の有望選手からも注目されることだろう。そうなれば、小出譲治市長が標榜する「市原市をジュニアゴルファーの聖地に」という思いとも合致する。
「千葉市には園芸科がある高校がないし、そのような、いろいろなところから生徒が来てほしい」と大岩校長。市と包括連携協定を結ぶ高校は全国でも珍しい。ゴルフを通じて地域と密着する高校として今後も工夫を重ね、過疎化などを憂う全国の市町村のモデル校となるかもしれない。
■ゴルフは市の産業として大きな位置を占めている:千葉県市原市・小出譲治市長インタビュー ≫≫≫
取材・文 鈴木遍理(情報シェアリング部会委員)