『People』第10回 2003年に83歳で1日144ホール(8ラウンド)達成:熊本・中原金藏さん(故人)

エージホール シュート

熊本ゴルフ倶樂部城南コース(熊本市南区)のクラブハウスを抜けて1番ホールに向かう途中、練習グリーン左手に2つの石碑が並ぶ。向かって右には、縦書きでこんなふうに記されている。

ゴールド シニア エージホール シュート
8ラウンド 144ホール達成
中原 金藏(八十三才)
平成十五年六月十二日
記録係 ゴルフのパートナー
支配人 原口英機

石碑にはこのコースのメンバーである中原さんの写真も刷り込まれている。もう1つはそれより4年前に同じコースで126ホール(7ラウンド)を達成したものである。この「エージホール シュート」というネーミングは頭の中で「???」となるが、雰囲気が伝わってくるので分かりやすい。

大変な「荒行」から21年。その時の中原さんのプレーに同行し、当時、同ゴルフ場でフロント係をしていた太田裕士氏(現熊本ゴルフ倶樂部阿蘇湯の谷コース支配人=熊本県南阿蘇村、53歳)に話を聞くチャンスを得た。太田さんは「昔のことなので記憶が間違っている場合が多々あります。そのあたりは許してください」と言ってラウンドにまつわる話をしてくれた。

当時を知る太田裕士氏(現熊本ゴルフ倶樂部阿蘇湯の谷コース支配人)

決行は夏至に近い日照時間の長い6月 午前3時スタート

太田さんたちはチャレンジの日を6月12日と決めると、まずはメンバーらに参加者を募った。集まったのは当時の原口英機支配人ら5~6人。決行日は日照時間が最も長い夏至に近くて、一般ゴルファーがプレーをしないコース休業日。4年前に7ラウンド(126ホール)を達成した時も原口支配人は一緒に回っている。この時のチャレンジ日は6月15日で、やはり太陽と接する時間が長い日である。

4年前の経験を生かし、所要時間は1ホール10分前後のタイムテーブルなどを作成し、入念なチェックをして午前3時にスタートする。「私たちは午前2時前にはコースに来て準備しました。3時にスタートしないと、8ラウンドは無理ですから」。太田さんの役目はラウンドする中原さんたちの前でボールの行方を見極める「露払い」。太田さんともう1人の計2人で目を凝らしてボールを追いかけた。「中原さんの場合、飛びませんがほとんど真っすぐしかいかなかったので、苦労はしませんでした」。右や左に曲がれば、ボールを探す時間もかかるし、ロスが大きくなる。真っすぐ行く自信がなければ、中原さんも挑戦しなかったのではないか。

暗い時間帯では投光器の光が頼りとなった。中原さんはその光の幅を外すことは、皆無に近かったという。「プレーは淡々と普通にやっていました。ルーティンとして必ず1度素振りをして打っていましたね」。チャレンジだからと言って、急ぐことなく自分のいつものスタイルを通した。

カート使用で2バッグで回った。1人で黙々とラウンドするのはリズムが悪かったのだろうか。パートナーを務めたプレーヤーたちも、中原さんと同等の腕前でないと、達成の弊害になりかねない。当たり前だが、中原さんは代わることはなかったが、パートナーたちは入り代わり立ち代わりした。太田さんたちも1ラウンドごとに交代してボールの行方を見守った。

食事は用意していたおにぎり、パン、バナナなどを短い時間で胃袋に詰め込んだ。使用ティーイングエリアは太田さんも「レディスかゴールド」とはっきり覚えてはいない。現在のヤーデージだとレディスが5436ヤード、ゴールドが5858ヤードとなっている。

 

午後10時25分にホールアウト。所要時間19時間25分

中原さんが最終的に144ホールを終えたのは午後10時25分。実に19時間25分のロングランであった。トータルスコアは831(パー576)という気の遠くなる数字が並ぶ。平均スコアは約104。スタートしてから数ラウンドは2桁だったスコアも、ラウンドを重ねるごとに悪くなっていったと想像できる。中原さんは70歳の頃から毎日10kmのウォーキングを続け、この「ウルトララウンド」に備え、1年前の5月から2倍の20kmに増やしたという。ホールアウト後、中原さんは「成し遂げられたのは、プレーを見守ってくれた友人らと健康のおかげ」と話したそうだが、太田さんには忘れられないシーンがある。「プレーが終わって、中原さんはクラブハウス内のラウンジで20~30分談笑してから立ち上がろうとしたら、立ち上がれなかったんです。家族の方に支えられて、ゆっくりと帰られました」。達成感も手伝ったのだろう。疲れがどっと出たようだ。それでも83歳という年齢を考慮すれば、快挙である。

中原さんは仕事の付き合いで52歳からゴルフを始めたという。太田さんによると「土日はほとんどラウンドをしていました。細身の体付きで身長は160cm前半だったと思います。いつも身なりはきちんとしていてオシャレでした。おじさんウェアではなかったですね。元気で温和な方でした」

舞台となった熊本ゴルフ倶樂部城南コース

24時間のギネス記録は851ホール

ちなみに、ギネス認定の記録として24時間最多ホール数は2004年6月21日から22日にかけてカナダのロブ・ジェームズというプレーヤーが、ビクトリアGC(9ホール、3002ヤード)で回った851ホール。実に47ラウンドと5ホールという信じられない記録。カートを使い1ラウンドを30分で回ったそうだ。中原さんはギネスに申請したと言われているが…。
ラウンドした熊本GC城南コースはコースレート75.1を誇り、九州では難易度の高いコースとして知られる。

 

取材/文・森本博樹(情報シェアリング部会・委員)

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