ゴルフが女性にもっと身近なスポーツになってほしいと、さまざまな改革にチャレンジしてきた田代祐子さん(72)。アコーディアゴルフの社長、会長として、女性がゴルフを楽しめる環境作りを目指してイノベーションを起こしてきた。現在は子供たちにゴルフを通じてライフスキル(生きる力)や豊かな人間性を身に付けてもらう「ファーストティ ジャパン」の理事長を務める田代さんに、女性とゴルフ、女性の社会進出、ゴルフ界の未来などについて聞いた。
女性が本当に楽しかったと思えるゴルフ場に向けて改革
――鹿児島県出身の田代さんは19歳でアメリカ人と結婚して米国に渡り、3人の子供を育てながら26歳でオハイオ州の大学に入学。6年かけて会計学を学び、46歳で帰国するまで米国で公認会計士を務めました。そのような経歴をお持ちなので、日米の文化、社会の違いについても精通されています。今回は、日本で女性がゴルフにもっと親しんでもらうために何が必要かを、お聞きしたいと思います。
田代 私自身のゴルフとの関りは、米国で公認会計士だった時にクライアントとのお付き合いで始めたのが最初でした。ただ、もともと運動は苦手で、周りにも女性はいなかったので、5年くらいはとても苦労しました。でもそのうちに楽しくなり、車にキャディーバッグを積んで夏は午後4時くらいからラウンドしていました。でも帰国してから、まさかゴルフに関連する仕事に就く(2016年にアコーディア・ゴルフの社長に就任、21年から25年まで同会長)とは思ってもいませんでした。
――そのような中で、女性がゴルフをもっと楽しむことができるように様々な改革にチャレンジされています。
田代 最初に思ったのは、コースのトイレの汚さ。アメリカでもパブリックコースなどはコース内にトイレさえないところもあって、女性は本当に大変なんです。それを徹底的に改善しました。また、女性をプロジェクトリーダーに登用して、女性の視点から、女性がストレスを感じないゴルフ場を目指しました。例えばヘアードライヤー。4人でラウンドして3人が男性だと、女性は男性のペースに合わせようと必死なんです。お風呂に入っても男性たちを待たせてはいけないと、出来るだけ早く髪を乾かそうとする。だからヘアードライヤーは最も高級なものを設置しました。髪を洗うにしてもシャンプーにこだわる女性は多いので、いろいろなブランドを揃えたシャンプーバーを設置しました。男性たちからは「なぜ、そこまでやる必要があるのか」と不思議がられましたけどね。
――ゴルフ場に限りませんが、運営に長く携わっていると、運営側の視線に偏りがちです。徹底した女性ユーザー視線に立って、改革を進めたわけですね。
田代 私はずっとユーザーだったわけですからね。お客様の視点に立つのは、どのビジネスでも凄く大切なことです。女性用のティーイングエリアにしても、ただ前に出すのではなく、その場所がバンカー越えになったり、木が邪魔していたりしないように気遣うべきです。女性が本当に楽しかったと思って帰ることを最大のポイントにして改革を進めていったら、結果も出るようになりました。
「改革をするには全く違った目、感性を持った人が必要」
――ジェンダーギャップ指数など、女性の社会進出や男女平等の度合いを示す値を見ると、日本はいまだに世界の中で100位を下回っています。田代さんがチャレンジしてきたゴルフ場の改革は、日本社会全体にも通じることと言えそうです。
田代 大きな意味でいうと、日本が強い国になるためには、もっと女性を活用しなければならないと思います。女性がかわいそうだからとか、女性を何とかするためにではなく、国や社会がよりよくなるために、女性の才能や力をもっと使わなければならないというのが、私の信念です。かつ、消費者の半分は女性なのだから、これは無視できません。少子高齢化で労働力がとか言うけれど、女性はたくさんいるじゃないですか。ここまでいろいろなことをやってきた自分に貢献できるのは、日本の女性たちをもっと後押しして活躍してもらい、もっといい社会を作っていくことだと思っています。口だけで女性を活躍させましょうと言っても、何も変わりません。
――女性もそうですが、外国人や障がい者らも含めて、本当の意味で会社や社会のためになる人をフェアな目で見て登用していく、多様性が必要ということですね。
田代 同じ人たちだけでは改善しかできず、改革はできません。改革をするには全く違った目、感性を持った人が必要で、多様性とはそういうこと。全く違う価値観を持った外国人のスタッフを入れるだけで、変わっていきます。女性に関しても、男性とはかなり違った感性を持っていることが生物学的にも証明されています。そのような異なった価値観を持った人たちを、これまで男性ばかりだった組織に入れることで、いろんな発見があり、違ったこともできる。本当の意味での改革というのは、そういうところから始まります。確かに単一の人たちだけで同じことをやっているのは心地良いし、何も変わらなくてもいいと思ってしまうかもしれません。私だって、この年になってデジタルの世界には住みたくないと思う。でも、世界はどんどん変わっていくわけで、海外の例なども、もっと研究していくべきだと思っています。
子供たちがゴルフを通じて人生に必要なライフスキルを学ぶファーストティ・プログラム
――田代さんは現在、ゴルフを通じて子供たちにライフスキルを身に付けてもらうファーストティ・プログラムを日本でも広めようと、「ファーストティ ジャパン」の理事長も務めています。日本ではまだ馴染みがあまりありませんが、米国ではゴルフ界の新たな潮流となっているそうですね。
田代 ファーストティは1997年に活動がスタートし、現在は米PGAツアーの傘下で米国および世界6カ国で展開されているプログラムです。7歳から18歳までの子供たちが対象で、目的はゴルフのスキルアップではなく、ゴルフを通じて協力しあうことや、コミュニケーションなど人生に必要なライフスキルを学びます。今では約2000カ所の施設で実施され、年間約320万人が参加し、高校生には、企業でのインターンシップや大学進学のための奨学金があります。高校生はジュニアコーチという資格も取ることができるほか、ボランティア活動にも従事するなど、社会貢献の意識も高くなるので、そのような学生をリクルートしたいアマゾンなど大手企業からも注目されています。このプログラムがなければゴルフに触れることがなかったであろう生活困窮者の家庭や、移民の子供たちにも広く門戸は開かれ、きちんとしたマナーや相手への尊敬、社会貢献などを学ぶことができます。
――日本支部である「ファーストティ ジャパン」は、どのくらい浸透しているのでしょうか。
田代 私は2023年9月から関わり、現在は東京都、神奈川県、兵庫県、愛知県、静岡県、長野県、大阪府など、活動は全国に広がりつつあります。
――プログラムを実施する会場はゴルフ練習場が中心なのでしょうか。
田代 ちょっとした広い場所があれば可能です。スナッグゴルフなどを使っていろいろなゲームをチームで進めながら、協力しあうことなどを学んでいくので、ゴルフ場や練習場ではなくても出来るのです。
――指導者の育成も大切ですね。
田代 米国はマニュアル社会なので、どのコーチが指導を行っても差が出ないように、しっかりしたマニュアルが作られています。日本は会社などで『この人がいないと仕事が回らない』ということがよくあり、いわば職人の社会ともいえますが、米国では新たなポジションに就いた人でも戸惑うことなく仕事を引き継げるようになっています。ファーストティの活動を、日本でももっと広めていきたいと思っています。
◆田代祐子 1954年、鹿児島県生まれ。19歳で渡米し、26歳から米オハイオ州の大学で子育てをしながら会計学を学び、86年に世界4大会計事務所の一つであるKPMGに公認会計士として入所。2000年に帰国後、ゼネラル・エレクトリック(GE)社で女性リーダーの育成などを担当した。11年の東日本大震災をきっかけに岩手県一関市に移住、被災した中小企業などの助成金申請などをサポートするボランティア活動に従事。16年、アコーディア・ゴルフ社長に就任。21年から25年まで同会長職。19年から26年までヤマハ発動機社外取締役。現在は日本マクドナルドホールディングス社外取締役、「ファーストティ ジャパン」理事長など。
構成・鈴木遍理(情報シェアリング部会委員)


